福井の繊維・眼鏡産業が「世界で勝てる人材」を採用するために、人事が取り組むべきこと
制度設計・運用

福井の繊維・眼鏡産業が「世界で勝てる人材」を採用するために、人事が取り組むべきこと

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福井の繊維・眼鏡産業が「世界で勝てる人材」を採用するために、人事が取り組むべきこと

「海外の展示会に出展したいが、英語ができる社員がいない」「海外バイヤーとの交渉を任せられる人材がほしい」——福井の繊維・眼鏡産業の経営者から、こうした相談を受けることがあります。

福井県は、日本の眼鏡フレーム生産の約95%を占める鯖江市を擁し、合繊織物の生産でも国内有数のシェアを持つ「ものづくり県」です。その製品は品質の高さで世界的にも評価されており、鯖江の眼鏡フレームは欧州の高級ブランドにもOEM供給されています。福井の繊維素材は、世界のハイファッションブランドに採用されています。

しかし、「世界に通用する製品」を作っていながら、「世界と渡り合える人材」が社内にいない——このギャップが、福井の繊維・眼鏡産業の成長を制約しているケースが少なくありません。

私は500社以上の企業の人事に関わってきましたが、グローバル人材の採用は「英語ができる人を採ればいい」という単純な話ではないと痛感しています。特に福井のような地方の製造業がグローバル人材を採用するには、独自の戦略が必要です。


なぜ今、福井の産業にグローバル人材が必要なのか

福井の繊維・眼鏡産業がグローバル人材を必要とする背景には、いくつかの構造的な要因があります。

第一に、国内市場の縮小です。人口減少に伴い、国内の眼鏡市場・繊維市場は長期的に縮小傾向にあります。国内だけで事業を維持していくのが難しくなる中、海外市場の開拓は成長戦略の柱になります。

第二に、海外市場での競争激化です。福井の製品は品質で勝っていますが、中国・韓国・東南アジアのメーカーがコスト競争力を武器に追い上げています。品質だけでなく、デザイン提案力、ブランディング力、顧客対応力——こうした「人に依存する競争力」がますます重要になっています。

第三に、サプライチェーンのグローバル化です。原材料の調達、製造工程の一部の海外委託、海外の販売代理店との連携——事業のバリューチェーン全体がグローバルに広がる中で、海外とのコミュニケーションができる人材が不可欠になっています。

第四に、海外の高級ブランドとの直接取引の増加です。OEMからODM(Original Design Manufacturing)、さらには自社ブランドの海外展開へ——福井の繊維・眼鏡産業が付加価値の高い事業モデルに移行するためには、海外のブランドやバイヤーと対等に交渉できる人材が必要です。

こうした状況の中で、「グローバル人材がいない」という状態は、事業の成長を制約するボトルネックになりつつあります。


「グローバル人材」とは何か——定義を明確にする

「グローバル人材を採用する」と言うとき、まず「グローバル人材とは何か」の定義を明確にする必要があります。「英語ができる人」=「グローバル人材」ではありません。

福井の繊維・眼鏡産業が必要としている「グローバル人材」の要素を整理してみます。

語学力は基本要件ですが、それだけでは足りません。ビジネスレベルの英語(場合によっては中国語・フランス語・イタリア語)でのコミュニケーション能力が求められます。ただし、完璧な語学力よりも「伝える意欲と工夫」の方が重要な場面も多いです。

異文化理解力も重要です。海外のビジネス慣行、交渉スタイル、意思決定プロセスの違いを理解し、適応できる力です。例えば、欧州のバイヤーとの交渉では、製品の品質だけでなく、サステナビリティへの取り組みや企業の哲学を問われることが増えています。

業界知識は不可欠です。繊維や眼鏡の製造工程、素材、品質基準、業界のトレンドを理解した上で海外とやり取りできなければ、交渉の場で信頼を得ることは難しいです。

マーケティング・営業力も求められます。海外市場のニーズを把握し、自社の製品をどう提案するかを考える力です。海外展示会でのプレゼンテーション、バイヤーとの関係構築、市場調査——こうしたスキルが必要です。

プロジェクトマネジメント力も大切です。海外との取引は、時差、言語、文化の違いの中でプロジェクトを進める必要があります。複数のステークホルダーを調整し、スケジュール通りに物事を動かす力が求められます。

これらの要素のうち、「自社にとって最も重要なのはどれか」を明確にすることが、採用のミスマッチを防ぐ第一歩です。


グローバル人材の採用チャネルを広げる

福井の繊維・眼鏡産業がグローバル人材を採用するとき、従来の採用チャネル(ハローワーク、地元の求人媒体、知人紹介)だけでは候補者にリーチできません。

いくつかの採用チャネルを紹介します。

「バイリンガル人材に特化した転職エージェント」の活用は、最も直接的な方法です。日本国内には、バイリンガル・マルチリンガル人材に特化した人材紹介会社が複数あります。これらのエージェントを通じて、海外経験を持つ日本人や、日本語ができる外国人人材にアプローチできます。

「海外在住の日本人ネットワーク」も有効です。海外で繊維やファッション、眼鏡業界に携わっている日本人の中には、「いつか日本に戻って、ものづくりの現場に関わりたい」と考えている人がいます。海外の日本人コミュニティやLinkedInを通じてリーチする方法があります。

「外国人材の採用」は、グローバル化の直接的な手段です。日本の大学で学んだ留学生、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人、特定技能の在留資格を持つ人材——こうした外国人材を採用することで、語学力と異文化理解を組織に取り込めます。

「大学との連携」も重要です。金沢大学、福井大学、さらには東京や大阪の国際系学部を持つ大学とのインターンシップ連携は、グローバル志向の若手を引きつける手段になります。

「海外の展示会での採用活動」という方法もあります。ミラノのMIDO(国際眼鏡展)やパリのPremiere Vision(繊維素材展)など、業界の国際展示会に出展する際に、同時に採用活動を行う。展示会で自社の製品に興味を持った人材に、「うちで一緒に働きませんか」と声をかける——こうした採用は、業界への関心と自社への共感が重なった人材にリーチできるチャネルです。


ある鯖江の眼鏡メーカーでの話

鯖江市のある眼鏡フレームメーカーの事例をお話しします。

この企業は、技術力では国内トップクラスの評価を受けていましたが、海外売上比率はわずか5%程度でした。「海外に出たい」という経営者の意志はあったものの、「海外とやり取りできる人間がいない」ことが障壁になっていました。

最初に試みたのは、中途採用で「海外営業経験者」を探すことでした。しかし、都市部の大手メーカーからの転職者を鯖江に呼ぶのは簡単ではありませんでした。給与面で太刀打ちできない、鯖江という立地のハードルが高い——こうした理由で、半年間採用が決まらない状態が続きました。

方針を変えたのは、「グローバル人材を一人で完結させようとしない」という発想の転換でした。

具体的には、「海外営業のプロフェッショナル」を正社員で採用する代わりに、3つの施策を組み合わせました。

一つ目は、地元のバイリンガル人材の活用です。鯖江には、海外生活経験のある地元出身者が少数ながらいました。フルタイムの海外営業ではなく、「海外とのメール・オンライン会議の通訳・翻訳サポート」として週3日のパートタイム採用をしました。

二つ目は、海外在住のフリーランスエージェントとの契約です。欧州の眼鏡市場に精通した日本人フリーランスと業務委託契約を結び、現地でのバイヤー開拓とMIDO出展時のサポートを依頼しました。

三つ目は、社内の若手技術者に「海外対応トレーニング」を施したことです。英語での製品説明、基本的な貿易実務、異文化コミュニケーション——これらを半年間の社内研修で教えました。完璧な英語は求めず、「自社の技術を自分の言葉で説明できるレベル」を目指しました。

この組み合わせにより、2年後には海外売上比率が15%まで上昇しました。「一人の完璧なグローバル人材」ではなく、「複数の人材とリソースの組み合わせ」でグローバル対応力を構築した事例です。


外国人材の採用と定着——福井の文脈で考える

グローバル人材の確保策として、外国人材の採用は重要な選択肢です。しかし、「採用して終わり」ではなく、「定着して活躍してもらう」ための仕組みが必要です。

福井県は、技能実習制度を通じて外国人労働者を受け入れてきた歴史があります。繊維産業では、ベトナム・中国・ミャンマーなどからの技能実習生が製造現場で働いています。しかし、技能実習と「グローバル人材の採用」は異なるものです。ここで議論しているのは、語学力・専門知識・ビジネススキルを持つ高度人材としての外国人採用です。

高度外国人材を福井に呼び込み、定着してもらうための課題と対策をいくつか考えます。

「言語の壁」への対策として、社内の重要な情報(就業規則、安全マニュアル、評価制度の説明など)を多言語化することが基本です。日常業務でのコミュニケーションツールとしてチャットツールや翻訳ツールを活用することも効果的です。

「生活環境の支援」として、住居探し、銀行口座開設、行政手続きなど、日本での生活立ち上げのサポートは不可欠です。福井は大都市と比べて外国人向けのインフラが少ないため、会社が積極的に支援する姿勢が求められます。

「キャリアパスの明示」も重要です。外国人材にとって、「この会社でどのようにキャリアアップできるか」が見えないと、数年で離職するリスクが高まります。日本人社員と同じ評価基準・昇進機会を明確に伝えることが、長期定着の鍵になります。

「文化的な孤立の防止」は見落とされがちな課題です。福井のような地方都市では、外国人コミュニティが小さく、「同じ国の人と交流する機会がない」という孤立感を感じる外国人材がいます。地域の国際交流協会や外国人コミュニティとの接点を作ることが、生活の満足度を高めます。

福井のある繊維メーカーでは、イタリア出身のデザイナーを採用し、海外ブランドとの窓口として活躍してもらっていました。この人材の定着に大きく貢献したのは、「福井の繊維産業の技術へのリスペクト」を会社全体が共有していたことだったといいます。「この技術は世界的にすごい」というメッセージが社内外から伝わることで、「ここで働く意義」を感じてもらえたのだそうです。


社内人材のグローバル化——「育てる」という選択肢

グローバル人材を「外から採る」だけでなく、「社内の人材をグローバル化する」というアプローチも重要です。特に福井の中小企業では、いきなり高度なグローバル人材を採用するのが難しい場合があります。その場合、既存社員のグローバルスキルを段階的に高めるという方法が現実的です。

語学研修は最も基本的な施策です。ただし、「英会話教室に通わせる」だけでは効果は限定的です。「自社の製品を英語で説明する」「海外バイヤーからのメールに返信する」——こうした「業務に直結した語学トレーニング」の方が、学習意欲と実践力の両方が高まります。

海外展示会への同行は、実践的なグローバル経験を積む機会になります。最初はオブザーバーとして参加し、徐々にバイヤーとの対応を任せていく。この段階的な経験が、社内にグローバル対応力を蓄積します。

海外出張・研修の機会を設けることも効果的です。取引先のある国を訪問し、現地の市場を視察する。海外の同業者と情報交換する。こうした経験が、「世界の中での自社の位置づけ」を理解する契機になります。


グローバル採用のコストを「経営数字」で考える

グローバル人材の採用や社内人材のグローバル化に取り組むとき、経営層の理解が不可欠です。「海外展開はコストがかかる」「まだ早い」——こうした反応に対して、人事は経営数字で説明する準備が必要です。

海外市場の潜在売上を試算してみます。現在の国内売上に対して、海外市場の規模はどのくらいか。自社製品の競争力から、海外でどの程度のシェアが見込めるか。仮に海外売上比率を5%から20%に引き上げた場合、売上はいくら増えるか。

その売上増を実現するために、グローバル人材への投資(採用費用、語学研修、海外出張費など)がいくら必要か。投資対効果(ROI)をざっくりとでも計算し、「海外市場の売上ポテンシャルに対して、人材投資はこの金額です」という説明ができれば、経営との対話が前に進みます。

ある福井の繊維メーカーでは、「海外営業担当1名の年間コスト(年収+渡航費+展示会出展費)が約800万円。この投資によって新規海外取引が年間3,000万円生まれれば、初年度で投資を回収できる」という試算を経営者に示したことで、採用のゴーサインが出た事例がありました。


「福井のものづくり」をグローバルブランドにする

福井の繊維・眼鏡産業がグローバル人材を必要とする究極の理由は、「福井のものづくりの価値を、世界に正しく伝えたい」ということではないかと思います。

鯖江の眼鏡は、その精緻な技術と品質で世界の一流ブランドから信頼されています。福井の繊維素材は、世界のファッション産業を支えています。しかし、その価値が「福井」「鯖江」というブランドとして十分に認知されているかと言えば、まだ道半ばです。

イタリアのムラーノ(ガラス工芸)、スイスのジュラ渓谷(時計)のように、「産地名がブランドになる」状態を目指すことが、福井のものづくり産業の長期的なビジョンになり得ます。そのビジョンの実現には、技術力だけでなく、「技術の価値を世界に伝える人材」が不可欠です。


よくある失敗パターン

「英語ができる人」だけを基準に採用する

語学力は重要ですが、業界知識や営業力がなければ海外ビジネスは成り立ちません。「英語ができるが業界を知らない人」より「英語は発展途上だが業界に精通している人」の方が、早く戦力になることがあります。

グローバル人材を「孤立」させる

一人だけ採用して「海外のことは全部任せた」とすると、その人材が組織の中で孤立します。グローバル対応は「その人だけの仕事」ではなく「組織全体で取り組むこと」として位置づけることが大切です。

「海外展開」の目標を曖昧にしたまま人材を探す

「とりあえずグローバル人材がほしい」では、候補者も何を期待されているかわかりません。「どの市場に、何を、どのように展開するか」を先に決めてから、そのために必要な人材を定義することが順序です。


「事業を伸ばす人事」を福井のものづくりから

福井の繊維・眼鏡産業が持つ技術力は、世界的に見ても希少な価値を持っています。その価値を国内だけに閉じ込めておくのは、事業的にも文化的にももったいないことです。

グローバル人材の採用は、「海外営業をする人を雇う」という以上に、「自社の技術の価値を世界に伝え、事業の成長を加速させる」ための経営投資です。

その投資の方法は、「完璧なグローバル人材を一人採用する」だけではありません。社内人材のグローバル化、外部リソースの活用、段階的な海外展開——複数のアプローチを組み合わせることで、中小企業でも実現可能なグローバル化の道筋が見えてきます。

人事が経営に対して「グローバル人材への投資は、海外売上という形で回収できます」と語れるようになったとき、福井のものづくりの世界展開が本格化するのではないかと思います。福井の技術を、世界中の人に届ける。その実現のために、人事ができることはたくさんあるはずです。

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