北陸の中小企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる方法
組織開発

北陸の中小企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる方法

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北陸の中小企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる方法

「うちは残業も少ないし、有給も取れる。でも、社員の目がどこか覇気がない。『働きやすい』だけでは足りないのかもしれない」——石川県のある食品メーカーの経営者が、そう気づいた瞬間に立ち会ったことがあります。

「働きやすさ」と「働きがい」——この二つは似ているようで、実は異なる概念です。「働きやすさ」は、残業の少なさ、有給の取りやすさ、職場の人間関係の良さ、福利厚生の充実など、「不満を感じない」環境を指します。一方、「働きがい」は、仕事に意味を感じる、成長を実感する、自分の貢献が認められる、挑戦の機会がある——こうした「積極的な満足感」を指します。

「働きやすい」だけの会社は、社員が「辞めない」会社にはなれても、「頑張る」会社にはなりにくいです。逆に「働きがい」だけで「働きやすさ」が欠けている会社は、社員が燃え尽きてしまいます。

私は500社以上の企業の人事に関わってきましたが、「働きやすさ」と「働きがい」の両立こそが、持続的に成果を出し続ける組織の条件だと確信しています。北陸の中小企業は、「働きやすさ」の面では地域の生活環境を活かした優位性がありますが、「働きがい」の面ではまだ改善の余地がある企業が多いのではないかと感じています。


「働きやすさ」だけでは社員の心が離れる理由

「働きやすい職場」を作ることは重要ですが、それだけでは限界があります。

人間の動機づけに関する研究(ハーズバーグの二要因理論)によれば、「不満の解消」と「満足の向上」は、別の要因によってもたらされます。給与、労働環境、人間関係などの「衛生要因」が悪いと不満が生じますが、これらを改善しても「満足」にはならず、せいぜい「不満がない」状態になるだけです。「満足」を生むのは、達成感、承認、成長、責任、仕事そのものの面白さなどの「動機づけ要因」です。

北陸の中小企業で起きがちなのは、「衛生要因」の改善(残業削減、有給促進、職場環境改善)に注力した結果、「不満は減ったが、活力も生まれない」という状態です。「居心地は良いが、やりがいを感じない」——こうした状態は、静かに優秀な社員が流出するリスクを孕んでいます。


「働きがい」を生む5つの要素

社員が「働きがい」を感じるためには、5つの要素が必要です。

要素1:「意味」——自分の仕事が何の役に立っているか

自分の仕事が、会社の事業や顧客、社会にどう貢献しているかが見えることです。

北陸の中小企業では、製品が最終的にどのように使われているかを社員が知らないケースがあります。「うちの部品は、○○メーカーの□□に使われていて、最終的にはこういう人の役に立っている」——こうした「つながり」を見える化することが、仕事の意味づけになります。

要素2:「成長」——昨日の自分より今日の自分が進歩している

新しいスキルを身につけた、難しい仕事をやり遂げた、後輩を指導できるようになった——こうした「成長の実感」が、働きがいの源泉になります。

スキルマップによる成長の可視化、段階的な挑戦の機会の提供、研修・資格取得の支援——こうした仕組みが、成長の実感を支えます。

要素3:「承認」——自分の頑張りが認められている

上司からのフィードバック、チームメンバーからの感謝、経営者からの言葉——「自分の仕事が見られている、認められている」という実感が、働きがいに直結します。

1on1面談でのポジティブなフィードバック、表彰制度、社内報での活躍紹介——「承認」は必ずしも金銭的な報酬である必要はなく、「言葉にして伝える」ことで十分な効果があります。

要素4:「自律」——自分で判断し、行動できる

「言われたことをやる」だけでなく、「自分で考え、判断し、行動する」余地があることが、働きがいにつながります。

業務の裁量範囲を明確にし、「ここまでは自分の判断で進めていい」というラインを示すこと。改善提案制度を設け、「自分のアイデアが会社を変える」経験を提供すること——こうした取り組みが、自律感を育てます。

要素5:「つながり」——仲間と一緒に働いている

同僚との良好な関係、チームとしての一体感、「一人ではできないことを一緒に成し遂げる」経験——こうした「つながり」の感覚が、働きがいを支えます。

チームでのプロジェクト活動、部署横断の取り組み、社内イベント——「一人で仕事をしている」のではなく「仲間と一緒に仕事をしている」という実感を持てる環境を作ることが大切です。


ある富山の企業が「働きがい」を高めた話

富山県のある化学品メーカーの事例をお話しします。

この企業は社員数約80名で、労働環境は良好でした。残業は月平均15時間、有給取得率は70%、離職率は8%と低い水準でした。しかし、社員のエンゲージメントサーベイを実施したところ、「仕事のやりがい」「成長の実感」のスコアが低いことが判明しました。「居心地はいいが、刺激が少ない」という状態でした。

経営者は「このままだと、優秀な社員ほどいずれ物足りなくなって辞めるのではないか」と危機感を持ちました。

そこで取り組んだのが、「働きがい」を高めるための3つの施策でした。

第一に、「チャレンジプロジェクト制度」の導入です。年に2回、全社員から「やってみたいプロジェクト」を募集し、審査を経て実行する仕組みです。新製品の企画、業務改善の提案、新しい市場の調査——テーマは自由です。予算は1プロジェクトあたり上限50万円。採択されたプロジェクトには、通常業務とは別に月20時間の活動時間を認めました。

初年度には、若手社員が提案した「環境に配慮した新パッケージの開発」プロジェクトが採択され、実際に製品化につながりました。「自分のアイデアが形になった」という経験が、提案者だけでなく周囲の社員にも「うちの会社でもこういうことができるんだ」という刺激を与えました。

第二に、「スキルアップ支援制度」の拡充です。年間一人10万円の「学びの予算」を設け、業務に関連する書籍、オンラインコース、セミナー、資格試験の費用に使えるようにしました。「何を学ぶか」は本人の判断に委ね、「自分で決めた学び」の自律感を大切にしました。

第三に、「ナレッジシェア会」の定期開催です。月1回、有志が15分間のプレゼンで「最近学んだこと」「仕事で気づいたこと」を共有する場を設けました。発表者には強制性はなく、「話したい人が話す」スタイルですが、回を重ねるごとに発表者が増え、「学び合う文化」が醸成されていきました。

1年後のエンゲージメントサーベイで、「仕事のやりがい」「成長の実感」のスコアが大幅に改善しました。離職率はもともと低い水準でしたが、特に若手・中堅の「この会社に長くいたい」というスコアが向上したことが、人事担当者にとって最も嬉しい結果でした。


「働きがい」と「経営成果」の接続

「働きがい」の向上が経営にとってどのような価値を持つかを、数字で説明することが重要です。

エンゲージメントの高い組織は、低い組織と比較して生産性が高く、顧客満足度が高く、離職率が低い——こうした相関関係は、多くの研究で示されています。

具体的には、「チャレンジプロジェクトから生まれた新製品の売上」「スキルアップによる業務効率の改善」「離職率の低下による採用コストの節約」——こうした成果を追跡し、「働きがいへの投資のリターン」を可視化することが、施策の継続性を担保します。

「チャレンジプロジェクト制度の年間運営コスト○万円に対し、そこから生まれた新製品の年間売上が○万円」——こうした数字が、「働きがいへの投資は事業投資である」というメッセージを経営に伝えます。


「働きがい」と「働きやすさ」を測定する

両立の状態を「感覚」ではなく「数字」で把握するために、定期的な測定が有効です。

エンゲージメントサーベイを半年に1回実施し、「働きやすさ」に関する項目(労働時間、休暇取得、人間関係、職場環境)と「働きがい」に関する項目(成長実感、仕事の意味、承認、自律感)を分けて集計します。

この分類によって、「働きやすさは高いが、働きがいが低い」「働きがいは感じているが、働きやすさに不満がある」——こうした組織の「健康診断」が可能になります。

部門別の分析も重要です。製造部門は働きやすさは良好だが働きがいが低い、営業部門は働きがいはあるが働きやすさが課題——こうした部門ごとの特徴が見えれば、対策の優先順位が明確になります。

サーベイの結果を経営者に報告する際には、「働きがいスコアが10ポイント上がった部門は、生産性も○%向上していました」のように、エンゲージメントと経営成果の相関を示すことが説得力を持ちます。

福井県のある電子部品メーカーでは、エンゲージメントサーベイの導入をきっかけに、「製造部門の働きがいスコアが全社平均を大きく下回っている」ことが判明しました。原因を探ると、「自分が作った製品が何に使われているかを知らない」という声が多いことがわかりました。対策として、営業部門と連携して「顧客の使用事例」を製造部門に定期的に共有する仕組みを作ったところ、次回のサーベイで「仕事の意味」のスコアが大きく改善しました。


よくある失敗パターン

「働きやすさ」を充実させれば「働きがい」も自然に高まると思い込む

残業削減や福利厚生の充実は「不満の解消」には有効ですが、「やりがいの創出」には別のアプローチが必要です。この違いを認識しないまま「働きやすさ」だけに投資しても、エンゲージメントは上がりません。

挑戦の機会を「特別な人」にだけ提供する

チャレンジの機会が一部の社員に限定されると、他の社員は「自分には関係ない」と感じます。全社員に開かれた機会を提供し、「やりたい人が手を挙げられる」仕組みを作ることが重要です。

「承認」を制度化しすぎる

表彰制度は有効ですが、「毎月必ず誰かを表彰しなければならない」というノルマになると形骸化します。日常の1on1やチームミーティングでの「自然な承認」が最も効果的です。


「事業を伸ばす人事」を北陸の「働きがい×働きやすさ」から

「働きやすさ」と「働きがい」の両立は、北陸の中小企業が持続的に成長するための条件です。

北陸の中小企業には、「働きやすさ」の面でのポテンシャルがあります。通勤時間の短さ、生活コストの低さ、自然環境の豊かさ——こうした地域の特性は、「働きやすさ」の基盤です。

この基盤の上に「働きがい」を積み上げること——意味のある仕事、成長の機会、承認の文化、自律の余地、仲間とのつながり——これらを意図的に設計することが、北陸の中小企業を「居心地が良いだけの会社」から「情熱を持って働ける会社」に変える道ではないかと思います。

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