
北陸の企業が管理職のプレイングマネージャー問題を解消する方法
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北陸の企業が管理職のプレイングマネージャー問題を解消する方法
「管理職になったら、自分の仕事もやりながらチームの面倒も見ろと言われた。でも、正直どっちも中途半端になっている」——富山県のある機械メーカーの課長が、疲弊した表情でそう話していたことがあります。
「プレイングマネージャー」——自ら現場業務を担いながら、チームのマネジメントも行う管理職——は、北陸の中小企業ではほぼ「当たり前」の存在です。人員に余裕がない中小企業では、管理職が現場業務から完全に離れることは難しく、「プレイヤーとマネージャーの二足のわらじ」が暗黙の前提になっています。
しかし、この「プレイングマネージャー」という働き方が、管理職本人の疲弊、部下の育成不足、マネジメントの質の低下、離職リスクの増大——こうした問題を引き起こしていることに、多くの企業は十分に向き合えていません。
私は500社以上の企業の人事に関わってきましたが、プレイングマネージャー問題は「管理職個人の能力」の問題ではなく「組織の構造」の問題だと感じています。管理職に「プレイヤーとしての成果」と「マネージャーとしての成果」の両方を求める組織設計自体に、問題の根があります。
プレイングマネージャーが抱える「3つのジレンマ」
プレイングマネージャーは、日常的に3つのジレンマに直面しています。
第一に、「自分でやった方が早い」ジレンマです。部下に仕事を任せるよりも、自分でやった方が品質も速度も高い。短期的にはそれが正解に見えますが、長期的には部下の成長機会を奪い、管理職自身の業務量が膨らむ悪循環を生みます。
第二に、「時間の配分」ジレンマです。現場業務に時間を取られると、1on1面談、目標設定、キャリア面談、チームの方針策定——マネジメントに必要な時間が確保できません。「マネジメントは後回し」が常態化すると、チームの問題が水面下で膨らみます。
第三に、「評価の二重基準」ジレンマです。「プレイヤーとしての成果」と「マネージャーとしての成果」の両方で評価される場合、どちらに注力すれば評価されるかがわからない。多くの場合、「目に見える成果」であるプレイヤー業務に偏り、マネジメントが手薄になります。
プレイングマネージャー問題が組織に与える影響
プレイングマネージャー問題は、管理職個人の問題にとどまらず、組織全体に波及します。
「部下の育成が停滞する」のが最も深刻な影響です。管理職が忙しすぎて部下と向き合えないため、部下は「放置されている」と感じます。フィードバックが不足し、成長の方向性が見えず、モチベーションが低下する。その結果、優秀な部下ほど「この会社では成長できない」と感じて離職するリスクが高まります。
「管理職の疲弊と離職」も深刻です。プレイヤーとマネージャーの両方の負荷を抱え続けた管理職が、心身ともに限界に達してメンタル不調に陥る、あるいは「管理職を降りたい」「もう辞めたい」と感じるようになるケースは、北陸の企業で頻繁に見られます。
「次世代リーダーが育たない」という組織的な問題もあります。現在の管理職が部下育成に時間を使えないため、次の世代の管理職候補が育たない。管理職が退任するとき、後継者がいない——この悪循環が、組織のリーダーシップの空洞化を招きます。
プレイングマネージャー問題を解消する5つのアプローチ
アプローチ1:管理職の業務を「棚卸し」する
管理職が担っている業務を、すべて洗い出します。そして、「管理職にしかできない業務」「部下に任せられる業務」「やめられる業務」に仕分けします。
「管理職にしかできない業務」は、意思決定、方針策定、部下の評価・育成、経営との対話——こうしたマネジメント固有の業務です。
「部下に任せられる業務」は、管理職が「自分でやった方が早い」と思って抱えているが、実は部下に移管できる業務です。移管には一時的に教育のコストがかかりますが、中長期的には管理職の時間を解放し、部下の成長にもつながります。
「やめられる業務」は、惰性で続いているが成果に貢献していない業務、過剰な品質で行っている業務です。
この棚卸しを行うだけで、「管理職の業務の30〜40%は他の人に移管できる」ことが見えてくるケースが多いです。
アプローチ2:「マネジメント時間」を制度として確保する
管理職のスケジュールに、「マネジメント専用の時間」をブロックする仕組みを作ります。
「毎週金曜の午後は1on1とチームミーティングの時間」「月の第1月曜はキャリア面談の時間」——こうした「マネジメントの時間枠」を先に確保し、現場業務がその時間に侵食しないようにします。
経営者が「マネジメントの時間は生産活動と同じくらい重要だ」と明言することが、この仕組みを機能させる前提です。
アプローチ3:「リーダー補佐」の配置
管理職の下に「リーダー補佐」(チームリーダー、サブリーダーなど)を配置し、現場業務の一部を委譲します。
リーダー補佐は、管理職がプレイヤーとして担っていた業務の一部を引き受けると同時に、将来の管理職候補としての育成機会にもなります。「段階的な権限委譲」の形で、少しずつ任せる範囲を広げていきます。
アプローチ4:管理職の評価基準を「マネジメント成果」にシフトする
管理職の評価において、「プレイヤーとしての成果」と「マネジメントとしての成果」の比重を見直します。
現状が「プレイヤー70%、マネジメント30%」であれば、段階的に「プレイヤー40%、マネジメント60%」にシフトしていきます。「部下の成長」「チームの目標達成」「組織の課題解決」——こうしたマネジメント成果を評価の中核に据えることで、管理職の意識が「自分で成果を出す」から「チームで成果を出す」に転換されます。
アプローチ5:管理職を「孤独にしない」支援体制
プレイングマネージャーの孤独感は深刻です。上からは成果を求められ、下からは支援を期待され、横に相談できる相手がいない——こうした状況が、管理職の疲弊を加速します。
管理職同士の「横のネットワーク」を作ります。月1回のマネージャーミーティングで、互いの悩みを共有し、解決策を議論する。「自分だけが苦しんでいるわけではない」という安心感と、「他の管理職のやり方が参考になった」という学びが、管理職を支えます。
外部のメンターやコーチの活用も効果的です。「社内には話しにくいこと」を外部の専門家に相談できる場が、管理職のメンタルヘルスと意思決定の質を支えます。
ある石川の企業がプレイングマネージャー問題に取り組んだ話
石川県のある電子部品メーカーの事例をお話しします。
この企業は社員数約80名で、製造部門と営業部門にそれぞれ2名ずつ、計4名の管理職がいました。4名全員がプレイングマネージャーとして現場業務を兼務しており、月の残業時間は平均で60時間を超えていました。
問題が表面化したのは、製造部門の課長がメンタル不調で休職したことがきっかけでした。この課長は、チーム8名のマネジメントに加え、自らも製造ラインに入って作業していました。休職後、「あの人がいないと仕事が回らない」という状況に陥り、組織の脆弱さが露呈しました。
まず、4名の管理職全員の業務を棚卸ししました。1週間の業務を30分刻みで記録してもらい、「プレイヤー業務」と「マネジメント業務」に分類しました。結果、4名とも業務時間の70〜80%がプレイヤー業務に費やされており、マネジメント業務は20〜30%に過ぎませんでした。
次に、各管理職の業務の中から「部下に移管できるもの」を特定しました。製造部門の課長が行っていた品質検査の一部を、ベテラン社員に移管。営業部門の課長が行っていた見積書作成を、営業事務に移管。こうした業務移管により、管理職のプレイヤー業務を30%程度削減しました。
さらに、各チームに「チームリーダー」を1名ずつ配置しました。リーダーは管理職の補佐として、日常業務の進捗管理やメンバーへの作業指示を担います。管理職は「チーム全体の方針策定」「部下の育成」「経営との対話」に集中できる体制にしました。
管理職の評価基準も見直しました。「個人の業績」の比重を70%から40%に下げ、「部下の成長」「チームの目標達成」「業務改善」の比重を30%から60%に引き上げました。
1年後、管理職4名の残業時間は月平均40時間に減少しました。1on1面談の実施率は90%以上に向上し、部下のエンゲージメントサーベイのスコアも改善。チームリーダーの配置により「管理職が休んでも仕事が回る」体制が実現しました。
休職していた課長は復職し、「以前は自分が全部やらなきゃと思い込んでいた。チームに任せることで、自分もチームも楽になった」と話していました。
プレイングマネージャー問題の解消を「経営数字」で語る
この問題の解消を経営に提案するとき、数字で語ることが重要です。
管理職の残業コストを試算します。管理職4名の月平均残業60時間を40時間に削減できた場合、4名×20時間×残業単価3,000円=月間24万円、年間288万円の削減です。
管理職のメンタル不調による休職のコストは、代替要員の確保、業務の混乱、復職支援の工数を含めると、1件あたり200〜500万円に達します。予防のための業務改善投資と比較すれば、合理的な投資です。
部下育成の充実による離職率改善も試算できます。管理職がマネジメントに時間を使えることで、部下のエンゲージメントが向上し、離職率が改善すれば、採用コストの削減につながります。
よくある失敗パターン
「管理職は忙しいもの」と問題を放置する
プレイングマネージャーの過重負荷を「中小企業だから仕方ない」と見過ごすと、管理職の疲弊と離職、部下の育成停滞という長期的なダメージを受けます。「仕方ない」で片づけず、構造的な解決を模索することが重要です。
業務を部下に「丸投げ」する
「任せる」と「丸投げ」は違います。移管する業務について、「何を、どのレベルで、いつまでに」を明確にし、初期は管理職がフォローしながら段階的に移行することが重要です。
管理職の評価を変えずに「マネジメントに集中しろ」と言う
評価がプレイヤー業績で決まる状態で「マネジメントに時間を使え」と言っても、管理職は動けません。評価基準をマネジメント成果にシフトすることが、行動変容の前提です。
「事業を伸ばす人事」を北陸のマネジメント改革から
プレイングマネージャー問題は、北陸の中小企業が「成長の壁」を超えるための最重要課題の一つです。管理職が現場業務に追われてマネジメントができない状態は、「一人のスーパープレイヤー」に依存した組織であり、持続可能ではありません。
管理職が「自分で成果を出す人」から「チームで成果を出す人」に変わるとき、組織の力は格段に上がります。その転換を支えるのは、業務の棚卸し、マネジメント時間の確保、リーダー補佐の配置、評価基準のシフト、管理職への支援——こうした組織的な仕組みです。
北陸の企業の管理職が、「忙しくて部下と話す時間がない」状態から「チームの成長に向き合える」状態に変わること。その変化が、組織全体の成果を高めていくのではないかと思います。
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