北陸の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方
制度設計・運用

北陸の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方

#採用#評価#組織開発#経営参画#キャリア

北陸の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方

「うちの等級制度は20年前に作ったまま。社員数が倍になり、事業内容も変わったのに、等級だけが昔のまま残っている」——富山県のある製造業の人事部長が、そう話してくれたことがあります。

等級制度は、人事制度の「背骨」です。社員の格付け、給与テーブル、昇格の条件、期待される役割——人事制度の多くの要素が等級制度を基盤にしています。この背骨がずれていると、評価制度も報酬制度もうまく機能しません。

しかし、等級制度の見直しは人事制度改革の中でも最もハードルが高いテーマです。社員の格付けと報酬に直結するため、変更には大きな慎重さが求められます。

私は500社以上の企業の人事に関わってきましたが、等級制度が「形骸化」している企業は非常に多いと感じています。等級はあるが、等級の定義と実際の役割が一致していない。等級が上がっても仕事の内容は変わらない。等級と給与の関係が不明確——こうした状態が放置されています。


等級制度が形骸化する原因

北陸の中小企業で等級制度が形骸化する原因を整理します。

第一に、事業環境の変化に等級が追いついていないことです。創業時や制度導入時の事業規模、組織構造、職種構成に合わせて設計された等級が、事業の成長や変化に対応できていません。

第二に、等級の定義が曖昧なことです。「1等級:一般職」「2等級:中堅職」「3等級:指導職」——こうした抽象的な名称だけで、各等級に期待される具体的な役割やスキルが定義されていません。

第三に、昇格の基準が不明確なことです。「何ができれば次の等級に上がれるか」が客観的に示されていないため、昇格が上司の推薦や社長の判断に依存しています。

第四に、「年功的な運用」が実態化していることです。制度上は能力主義をうたっていても、実際には「○年勤めたら昇格」という年功的な運用が行われています。結果として、等級と実力の乖離が生じます。

第五に、等級と報酬の対応関係が崩れていることです。各等級の給与レンジが設定されていても、調整給やさまざまな手当が加算された結果、等級間の報酬の逆転が起きているケースがあります。


等級制度の3つの類型

等級制度の再設計にあたり、主要な3つの類型を理解しておくことが重要です。

類型1:職能等級制度

社員の「能力」に基づいて等級を格付けする制度です。「この人がどのくらいの能力を持っているか」が等級の基準になります。

メリットは、社員の能力開発を促進すること、ジョブローテーション(配置転換)がしやすいことです。日本企業の多くが採用している類型です。

デメリットは、能力の評価が主観的になりやすいこと、年功的な運用に陥りやすいこと(能力は年齢とともに上がる前提になりがち)、等級が上がっても仕事が変わらない場合があることです。

類型2:職務等級制度

「職務(ポジション)」の大きさに基づいて等級を格付けする制度です。「この人がどの仕事をしているか」が等級の基準になります。いわゆるジョブ型の考え方に近い制度です。

メリットは、「同じ仕事には同じ報酬」という公平性が確保されること、等級の定義が客観的であることです。

デメリットは、柔軟な配置転換がしにくくなること、職務が変わらなければ等級も変わらないため、成長のインセンティブが働きにくいことです。

類型3:役割等級制度

「役割」の大きさに基づいて等級を格付けする制度です。職能等級と職務等級の中間的な位置づけで、「その人が担っている役割の大きさ・難易度・責任の範囲」が等級の基準になります。

メリットは、職務等級ほど硬直的でなく、職能等級ほど曖昧でもない、バランスの取れた制度であること。中小企業にも適用しやすいことです。

デメリットは、「役割」の定義と評価に、ある程度の主観が入ることです。


北陸の中小企業に適した等級制度

北陸の中小企業には、「役割等級制度」が最も適していると考えています。

理由は以下の通りです。

第一に、中小企業では一人が複数の役割を兼務することが多く、職務等級のように「一つの職務に一つの等級」を厳密に定義することが難しいからです。

第二に、役割等級制度は「今の能力」ではなく「今担っている役割」で格付けするため、年功的な運用に陥りにくいからです。

第三に、北陸の中小企業は社員の長期勤続を前提としており、配置転換の柔軟性を確保しつつ、等級と役割の一致を図る必要があるからです。


等級制度を再設計する手順

手順1:現状の分析と課題の特定

まず、現在の等級制度の実態を分析します。

各等級の人数分布を確認します。特定の等級に人数が集中していないか。上位等級に人数が偏っていないか(いわゆる「頭でっかち」の状態)。

各等級の社員の実際の役割を確認します。等級の定義と実際に担っている役割が一致しているか。同じ等級でも、担っている役割の大きさに大きな差がないか。

等級間の報酬の状況を確認します。等級間で報酬の逆転が起きていないか。等級間の報酬差は適切か。

石川県のある機械メーカーでは、現状分析の結果、「3等級に全社員の45%が集中している」「3等級の中で、実際に担っている役割には大きな差がある」「2等級と3等級の報酬差がほとんどない」という課題が判明しました。

手順2:等級の数と定義を設計する

等級の数は、中小企業であれば5〜7等級が適切です。少なすぎると等級間の差が大きくなりすぎ、多すぎると管理が複雑になります。

各等級の定義を、具体的な役割と期待で記述します。

1等級(スタッフ)は、定型業務を上司の指導のもとで遂行する段階です。入社1〜3年目が想定されます。

2等級(シニアスタッフ)は、担当業務を自立的に遂行し、後輩の指導も行う段階です。入社3〜7年目が想定されます。

3等級(リーダー)は、チームやプロジェクトの運営を任され、メンバーの育成と成果に責任を持つ段階です。

4等級(マネージャー)は、部門の業績責任を持ち、経営方針を部門の戦略に落とし込んで実行する段階です。

5等級(シニアマネージャー・部長)は、複数部門を統括し、全社的な視点で経営に参画する段階です。

各等級の定義には、「期待される役割」「求められるスキル」「意思決定の範囲」「マネジメントの範囲」を具体的に記述します。

手順3:等級と報酬の対応を設計する

各等級の報酬レンジ(下限〜上限)を設計します。等級間に適切な重なり(オーバーラップ)を持たせるのが一般的です。完全に重なりがないと、昇格時に大きな給与変動が生じ、運用が難しくなります。

たとえば、2等級の報酬レンジが250万〜350万円、3等級が300万〜420万円のように、50万円程度の重なりを持たせます。

手順4:昇格の基準を設計する

各等級から次の等級に上がるための基準を、客観的・具体的に設計します。

基準は「能力要件」と「実績要件」の二つの軸で設定します。能力要件は「次の等級の役割を遂行するために必要なスキル・知識・行動特性を備えているか」。実績要件は「現等級で一定期間以上、期待される成果を出し続けているか」。

昇格の審査方法も明確にします。上司の推薦、人事評価の一定期間の実績、昇格審査面談、場合によっては論文や発表——こうしたプロセスを通じて、昇格の判断を行います。

手順5:移行計画と経過措置の設計

新しい等級制度に移行する際、現在の社員をどの等級に格付けるかを慎重に決定します。

現在の役割と新制度の等級定義を照らし合わせ、一人ひとりの格付けを行います。「現在の等級より下の等級に格付けされる社員」が出る場合は、経過措置として「移行期間中は現在の報酬を保障する」「段階的に新制度の報酬に移行する」といった配慮が必要です。


等級制度再設計のポイント

ポイント1:シンプルに保つ

中小企業の等級制度は、シンプルさが命です。複雑な制度は運用の負担を増やし、社員にも理解されません。等級数は少なく、定義は明確に、運用ルールは簡潔に——この原則を守ります。

ポイント2:社員への丁寧な説明

等級制度の変更は社員の処遇に直結するため、丁寧な説明が不可欠です。「なぜ変えるのか」「何がどう変わるのか」「自分の等級と報酬はどうなるのか」——一人ひとりの疑問に答える準備をした上で、全社説明会と個別面談を行います。

ポイント3:完璧を目指さない

等級制度に完璧はありません。運用しながら改善していく前提で、まずは「現状よりも良い制度」を目指します。導入後1年をメドに、実際の運用状況を検証し、必要な修正を加えます。


北陸の企業における等級制度再設計の実践例

福井県のある繊維メーカー(従業員約80名)の事例を紹介します。

この会社は、創業時から「1級〜8級」の8段階の職能等級制度を運用していましたが、事業規模の拡大に伴い、等級の定義と実態の乖離が深刻になっていました。「5級と6級の違いがよくわからない」「同じ6級でも、担当している仕事の難しさが全然違う」——社員からの不満が増えていました。

検討の結果、8段階の職能等級を5段階の役割等級に再設計しました。各等級の定義を「期待される役割」で明確に記述し、昇格の基準も「このレベルの役割を1年以上遂行し、上位等級の役割を担う準備ができている」という形に変更しました。

移行にあたっては、全社員への個別面談を実施し、「あなたは新制度ではこの等級になります。理由はこうです」と一人ひとりに丁寧に説明しました。報酬が下がる社員は3年間の経過措置手当で保障しました。

導入から2年後、社員アンケートでは「等級と役割の関係がわかりやすくなった」「昇格の基準が明確になった」という声が大幅に増え、評価制度への満足度も向上しました。


等級制度の再設計がもたらす経営効果

等級制度を適切に再設計することで、以下の経営効果が期待できます。

社員のキャリアの見通しが明確になり、「次に何を目指せばいいか」がわかることで、モチベーションが向上します。

等級と役割が一致することで、「この等級の人にはこれを期待する」が明確になり、マネジメントの質が向上します。

報酬の公平性が高まり、「なぜこの給料なのか」を等級と役割で説明できるようになります。

昇格基準が明確になることで、「何を頑張れば昇格できるか」が見え、自律的な成長を促す仕組みになります。

人件費の合理的な配分が可能になり、「役割の大きさに応じた報酬」という原則が組織に浸透することで、人件費の配分が最適化されます。

等級制度は、人事制度の基盤です。この基盤がしっかりしていれば、評価制度も報酬制度も安定して機能します。

まずは「自社の等級制度が、現在の組織の実態と合っているか」を確認してみてください。等級の定義と社員の実際の役割を比較するだけでも、改善の方向性が見えてきます。

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