北陸の不動産企業が営業人材の定着率を高める方法
育成・研修

北陸の不動産企業が営業人材の定着率を高める方法

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

北陸の不動産企業が営業人材の定着率を高める方法

「入社して1年で辞める営業が多い。教えるのに半年かかるのに、ようやく戦力になりかけたところで離職される」——金沢市のある不動産会社の営業部長が、そう嘆いていたことがあります。

北陸の不動産業界は、全国的な傾向と同様に営業人材の確保・定着に苦労しています。しかし、北陸には北陸特有の事情があります。北陸新幹線延伸後の不動産需要の変化、人口減少エリアと人口流入エリアの二極化、冬季の住宅事情——こうした地域特性を踏まえた人材戦略が求められています。

不動産営業は、成果が数字ではっきり見える一方で、「売れるまでのプロセス」が長く、心理的なプレッシャーが大きい仕事です。「売れない期間」をどう支えるか、「売れる営業」をどう育てるか、「成長した営業」がなぜ辞めるのかに辞めさせない仕組みをどう作るか——これらは、不動産企業の人事が向き合うべき中核的な課題です。

私は500社以上の企業の人事に関わってきましたが、営業人材の定着率改善は「報酬制度の見直し」だけでは実現しないと感じています。育成、評価、組織文化、キャリアパス——複数の要素を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。


不動産営業が「辞める理由」を構造的に理解する

不動産営業の離職理由を整理すると、いくつかのパターンがあります。

「成果が出ない初期段階での挫折」が最も多い離職パターンです。不動産営業は、経験や人脈が少ない初期段階では成約が出にくく、「この仕事は自分に向いていないのではないか」という不安に陥りやすいです。この「暗黒期」を乗り越えるサポートがないと、入社1年以内の離職につながります。

「成果と報酬のバランスへの不満」もあります。不動産業界ではインセンティブ型の報酬体系が多いですが、「基本給が低すぎて生活が不安定」「インセンティブの計算方法が不透明」「先輩と同じ仕事をしているのに報酬に大きな差がある」——こうした不満が蓄積すると離職につながります。

「長時間労働と不規則な勤務」は不動産営業の宿命的な課題です。顧客対応は土日が中心で、物件案内や契約手続きは時間が読めない。「平日に休めても、友人や家族と予定が合わない」「顧客からの連絡が勤務時間外にも来る」——ワークライフバランスの悪さが離職の引き金になります。

「キャリアの見通しのなさ」も重要な要因です。「売り続けるだけのキャリア」に将来性を感じなくなった営業が、異業種に転職するケースがあります。


定着率を高める5つの施策

施策1:入社初期の「育成プログラム」を体系化する

不動産営業の離職が最も多いのは入社1年以内です。この時期を乗り越えるための体系的な育成プログラムが不可欠です。

入社1〜3ヶ月は「基礎期」として、不動産の基礎知識(宅建業法、建築基準法の基本、ローンの仕組み、物件調査の方法)を座学と実地で学びます。この期間は成約件数を目標にせず、「学びに集中する期間」と位置づけます。

4〜6ヶ月は「実践期」として、先輩営業に同行しながら顧客対応を学びます。メンターを一人配置し、「いつでも相談できる相手」がいる状態を作ります。

7〜12ヶ月は「自立期」として、徐々に自分の案件を持ちながら、メンターのサポートのもとで成約を目指します。

このプログラムの重要なポイントは、「初期は成果を求めず、学びと成長を評価する」ことです。「入社3ヶ月で成約ゼロ」でも、「物件知識テストで満点」「顧客対応のロールプレイで合格」といった「成長の指標」を評価することで、若手営業の「自分は成長している」という実感を支えます。

施策2:報酬制度を「安定」と「挑戦」のバランスで設計する

不動産営業の報酬設計は、「基本給の安定性」と「インセンティブの動機づけ」のバランスが重要です。

基本給を「生活が成り立つ水準」に設定することが前提です。インセンティブに過度に依存した報酬設計では、「売れない月は生活できない」という不安が離職を招きます。

インセンティブの計算方法は透明にします。「どの物件を、いくらで成約したら、いくらのインセンティブがもらえるか」を明確にし、「頑張れば報われる」という実感を持てるようにします。

北陸の不動産市場は、首都圏と比べて物件単価が低い傾向があります。そのため、「成約件数に応じた報酬」と「顧客満足度や業務プロセスの質に応じた報酬」を組み合わせる設計が、北陸の文脈に合っています。

施策3:ワークライフバランスの改善

不動産営業の労働時間の問題に対して、組織的に取り組むことが定着率の改善につながります。

「定休日の確保」として、水曜定休に加えてもう1日の休日を確保し、完全週休2日制を目指します。「休みが増えると売上が減る」という懸念に対しては、営業プロセスの効率化で対応します。

「顧客対応時間の明確化」として、「営業時間外の電話対応は翌営業日に回す」「メールの返信は翌日午前中までに」といったルールを設け、勤務時間外の拘束を減らします。

「ITツールの活用」として、CRM(顧客管理システム)の導入、オンライン内見の実施、契約手続きの電子化——こうした効率化が、労働時間の削減に直結します。

施策4:キャリアパスの多様化

「営業一筋」だけでないキャリアパスを用意することで、「この会社に長くいる理由」を多様化します。

「マネジメントコース」として、営業チームのリーダー→営業部長→経営幹部という道。「スペシャリストコース」として、特定分野(投資用物件、商業用物件、リノベーション)のエキスパートとしての道。「企画・マーケティングコース」として、物件仕入れ、市場分析、広告戦略を担う道。

こうした複数のキャリアパスを提示し、「営業で成果を出した先に、自分に合ったキャリアの選択肢がある」ことを見せることが、長期的な定着を促します。

施策5:組織文化としてのチームサポート

不動産営業は「個人プレー」になりがちですが、チームとしてのサポート体制を作ることが定着率に影響します。

「朝会・夕会でのケース共有」として、日々の営業活動で得た知見や課題をチームで共有する場を設けます。「あの物件、こうアピールしたら反応が良かった」「この顧客はこういう条件を重視している」——こうした情報共有が、個人の経験をチームの資産に変えます。

「成功事例の共有と称賛」として、成約した営業に「どうやって成約まで持っていったか」をプレゼンしてもらう場を月1回設けます。ナレッジの共有と、成功への称賛が同時に行われます。


ある金沢の不動産会社が定着率を改善した話

金沢市のある中堅不動産会社の事例をお話しします。

この企業は売買仲介を主力事業とし、営業社員20名を含む社員数35名の会社でした。営業社員の1年以内離職率が40%を超え、「採っては辞め」の繰り返しに経営者は疲弊していました。

まず、過去2年間の離職者10名に退職理由のヒアリングを行いました。結果は、「成果が出ない不安」が最多で、次に「労働時間の長さ」「キャリアの見通しのなさ」が続きました。

これを受けて、3つの施策を実施しました。

第一に、12ヶ月間の「新人育成プログラム」を導入しました。最初の3ヶ月は成約を目標にせず、基礎知識の習得と先輩への同行に集中させました。この期間の評価は「知識テストの結果」「ロールプレイの評価」「物件調査レポートの質」で行い、「成約ゼロでも成長は評価される」というメッセージを明確にしました。

第二に、基本給を月額3万円引き上げ、「売れなくても生活できる」水準にしました。インセンティブの計算方法も見直し、成約金額だけでなく「反響対応件数」「案内件数」「契約書類の正確性」といったプロセス指標もボーナスに反映する仕組みにしました。

第三に、水曜に加えて隔週で木曜を定休とし、実質的に年間休日を増やしました。CRMの導入により物件管理と顧客対応の効率が上がり、営業時間内の生産性を高めることで、休日増加分をカバーしました。

2年間でこれらの施策を段階的に実施した結果、1年以内離職率が40%から15%に改善しました。定着した営業社員が戦力化することで、チーム全体の成約件数は前年比で増加したといいます。


定着施策を「経営数字」で語る

営業人材の定着施策を経営に提案するとき、数字で語ることが説得力を持ちます。

営業1名の離職・再採用コストを試算します。採用コスト(求人広告・面接工数)50〜100万円、入社後の育成コスト(研修時間・先輩の同行工数)100〜150万円、離職中の営業機会損失(本来その営業が成約していたはずの仲介手数料)が推定200〜500万円。合計で1名の離職あたり350〜750万円のコストが発生します。

年間5名の離職が3名に減れば、2名分のコスト削減で700〜1,500万円。定着施策の投資コスト(育成プログラム整備、基本給の引き上げ、CRM導入)と比較すれば、投資の合理性は明確です。


よくある失敗パターン

「売れる人だけ残ればいい」という発想

「離職率が高くても、残った人が稼げばいい」という考えは、短期的には機能しても、長期的には組織の疲弊を招きます。継続的な採用・教育コストが利益を圧迫し、チームの知見も蓄積されません。

インセンティブだけで動機づけしようとする

金銭的なインセンティブは短期的な動機づけにはなりますが、長期的な定着には「成長の実感」「チームの一体感」「キャリアの展望」が不可欠です。

育成を「現場任せ」にする

「先輩の背中を見て覚えろ」式の育成は、育成者の質にばらつきが出やすく、新人の「当たり外れ」が大きくなります。体系的な育成プログラムを組織として用意することが安定した戦力化につながります。


「事業を伸ばす人事」を北陸の不動産業から

北陸の不動産市場は、人口動態の変化や新幹線延伸の影響で大きく変わりつつあります。この変化の中で事業を伸ばすためには、市場の変化を捉える営業力——つまり人材の力——が不可欠です。

営業人材の定着率を高めることは、「人を辞めさせない」ことではなく、「この会社で成長し、成果を出したい」と思える環境を作ることです。その環境づくりが、結果として顧客満足度の向上、成約率の改善、組織の競争力の強化につながっていくのではないかと思います。

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