北陸の企業が人事と現場の「壁」を壊す方法
制度設計・運用

北陸の企業が人事と現場の「壁」を壊す方法

#エンゲージメント#採用#評価#研修#組織開発

北陸の企業が人事と現場の「壁」を壊す方法

「人事が決めたことは現場の実情に合っていない。でも人事に言っても聞いてもらえない」——石川県のある製造業の工場長が、率直にそう話してくれたことがあります。

一方、同じ会社の人事担当者はこう言っていました。「現場に良かれと思って制度を作っても、『そんなの使えない』と一蹴される。現場が何を求めているのかがわからない」

人事と現場の間に「壁」がある——これは、多くの企業に共通する課題です。しかし、北陸の中小企業ではこの壁が特に厚くなりやすい構造的な理由があります。

北陸の中小企業は、製造業を中心に「現場力」が強い企業が多いです。現場の叩き上げのベテランが高い技術力と経験で事業を支えています。こうした企業では、「現場が主役、管理部門はサポート」という序列意識が根付いていることがあり、人事が提案する施策に対して「机の上で考えたことだろう」という反発が生まれやすいのです。

私は500社以上の企業の人事に関わってきましたが、人事と現場の壁は「どちらかが悪い」のではなく「両者の間に対話の仕組みがない」ことが原因だと考えています。壁を壊すとは、どちらかを屈服させることではなく、対話と協働の仕組みを作ることです。


人事と現場の「壁」の正体

人事と現場の壁は、具体的にどのような形で表れるのでしょうか。

壁の形1:情報の非対称性

人事は全社の人事データ(離職率、人件費、評価結果の分布など)を持っていますが、現場の日常業務の実態は把握していないことが多いです。逆に、現場は日々の業務の課題は熟知していますが、会社全体の人事施策の意図や背景を知らされていないことが多いです。

この情報のギャップが、「人事は現場のことをわかっていない」「現場は全社的な視点がない」という相互不信を生みます。

壁の形2:言語の違い

人事は「エンゲージメント」「コンピテンシー」「タレントマネジメント」といった人事用語で語ります。現場は「段取り」「品質」「納期」「コスト」といった業務用語で語ります。同じ課題を話しているのに、使う言葉が違うため、互いの意図が正確に伝わりません。

壁の形3:時間軸の違い

人事は「中長期の組織づくり」を考えます。3年後の人材ポートフォリオ、5年後のリーダー育成計画——こうした時間軸で施策を立案します。現場は「今日の生産」「今月の納期」「今期の売上」という短期の時間軸で動いています。

「今忙しいのに、研修に人を出せと言われても困る」——この現場の声は、短期の業務遂行と中長期の人材育成の時間軸のギャップから生まれます。

壁の形4:評価される軸の違い

現場の管理職は「業績」で評価されます。生産性、品質、納期、コスト——これらの数字で成果を測られます。人事は「制度の運用」で評価されがちです。評価制度を回す、研修を実施する、採用計画を達成する——こうした「人事の仕事」が評価軸になります。

両者の評価軸が異なるため、「人事にとって重要なこと」と「現場にとって重要なこと」が噛み合わないのです。


壁を壊す方法1:人事が現場に入る

最も効果的な方法は、人事担当者が物理的に現場に入ることです。

現場同行・現場体験

人事担当者が、定期的に現場の業務を体験する時間を設けます。製造ラインで半日作業する。営業に同行して顧客先を回る。コールセンターで電話を隣で聞く——現場の仕事を体感することで、「現場がどんな課題を抱えているか」が肌感覚でわかるようになります。

富山県のある化学メーカーでは、人事部の全員が年に一度、一週間の「現場研修」を行っています。工場のラインに入り、実際の作業を体験する。この経験を通じて、「現場のことを理解した上で人事施策を設計してくれている」という信頼が、現場から寄せられるようになったと聞いています。

定期的な現場訪問

現場研修のような大がかりなものでなくても、人事担当者が週に一度、各部署を回って「何か困っていることはありませんか」と声をかけるだけでも効果があります。

ポイントは、「用事があるから行く」のではなく「用事がなくても行く」ことです。日常的に顔を出すことで、現場の社員が人事に対して親近感を持ち、小さな相談も気軽にできるようになります。


壁を壊す方法2:人事施策の「翻訳」をする

人事の専門用語を、現場が理解できる言葉に「翻訳」することが重要です。

人事用語を業務言語に変換する

「エンゲージメント向上」→「社員が辞めにくくなって、採用コストが下がる。ベテランが定着するから品質も安定する」

「コンピテンシー評価の導入」→「何を頑張れば評価されるかが、具体的な行動で見えるようになる。評価面談で何を話せばいいかが明確になる」

「タレントマネジメント」→「誰がどんなスキルを持っているかを見える化して、人の配置を最適にする。必要な人を必要な場所に配置できるようになる」

人事施策を説明するときは、「この施策によって現場にどんなメリットがあるか」を具体的な業務の言葉で伝えます。

「なぜやるか」を経営数字で説明する

現場の管理職は、数字で話す習慣があります。人事施策も数字で説明すると理解が得られやすくなります。

「この研修を実施すると、新人の独り立ちまでの期間が平均2ヶ月短縮される。その間の生産性の差を金額に換算すると、一人あたり約50万円のコスト削減になる」——こうした説明の方が、「人材育成は重要です」という抽象的な説得より、はるかに現場の納得を得られます。


壁を壊す方法3:人事と現場の「定例対話」の場を作る

人事×現場の定例ミーティング

月に一度、人事担当者と各部門の管理職が集まる定例ミーティングを設けます。議題は「人事の報告」ではなく「現場の人に関する課題の共有」です。

「来月退職予定の社員がいる。引き継ぎのスケジュールをどうするか」「新人の育成が思うように進んでいない。何が原因か」「繁忙期の残業が多い。人員配置を見直せないか」——こうした具体的な課題を、人事と現場が一緒に議論します。

石川県のある食品メーカーでは、月に一度の「人事カフェ」と名付けた対話の場を設けています。堅い会議ではなく、お菓子を食べながらのカジュアルな雰囲気で、現場の管理職と人事が率直に話し合います。「あの制度、現場では使いにくいんだよね」「実はこういう意図で設計したんだけど、どう変えたら使いやすい?」——こうした対話が、制度の改善につながっています。

人事に関する「現場の声」を収集する仕組み

定例ミーティングだけでなく、日常的に現場の声を収集する仕組みも重要です。

簡単なアンケート(5問程度、3分で回答できるもの)を四半期ごとに実施し、「人事制度で使いにくいと感じるもの」「人事に相談したいこと」「人に関する課題」を聞き取ります。


壁を壊す方法4:人事施策の設計に現場を巻き込む

制度設計への参画

新しい人事制度を設計するとき、「人事が設計して現場に導入する」のではなく、「現場と一緒に設計する」プロセスにします。

たとえば、新しい評価制度を作る場合、設計段階で各部門の管理職をメンバーに加えたプロジェクトチームを組成します。現場の管理職が「この評価基準は自部門の業務に合っている」「この項目は現場では評価しにくい」と具体的なフィードバックを出すことで、実効性の高い制度が設計できます。

福井県のある化学メーカーでは、人事評価制度の改定にあたり、各部門から2名ずつ、計10名のプロジェクトチームを組成しました。6ヶ月間、月に2回のミーティングを重ね、現場の実情に合った評価制度を完成させました。「自分たちが作った制度だから、納得して運用できる」——チームメンバーの言葉が印象的でした。

パイロット運用と現場からのフィードバック

新しい施策は、まず一つの部門でパイロット運用を行い、現場からのフィードバックを得てから全社展開します。「やってみてどうだったか」を現場の生の声で確認し、必要な修正を加えてから横展開する。このプロセスが、現場の信頼を得る鍵です。


壁を壊す方法5:人事の「成果」を現場に見える形で示す

人事施策の効果を数字で報告する

人事施策の成果を、現場にわかる形で定期的に報告します。

「昨年導入した新人研修プログラムにより、新人の3ヶ月時点での業務習熟度が20%向上した」「メンター制度の導入により、入社1年目の離職率が25%から8%に改善した」「評価制度の見直しにより、評価に対する社員満足度が40%から65%に向上した」

こうした数字を現場と共有することで、「人事がやっていることは、ちゃんと効果がある」という信頼が生まれます。

現場の「困りごと」を解決した実績を積む

大きな制度改革よりも、現場の日常的な「困りごと」を一つずつ解決する方が、信頼構築には効果的です。

「異動希望の出し方がわからないという声が多い→手続きを簡略化してガイドを作った」「産休・育休の手続きが複雑でわかりにくい→チェックリストを作って配布した」「パートタイムの採用に時間がかかる→採用プロセスを短縮した」

こうした小さな改善の積み重ねが、「人事は現場のことを考えてくれている」という信頼につながります。


人事と現場の壁を壊すことの経営的な意味

人事と現場の壁を壊すことは、「仲良くなりましょう」という話ではありません。事業の競争力に直結する経営課題です。

人事施策の実効性が向上します。現場の実情を反映した制度は、実際に使われる制度になります。「作ったけど使われない」制度が減り、人事施策への投資対効果が向上します。

問題の早期発見・解決が可能になります。現場の人に関する問題(離職の兆候、モチベーション低下、スキル不足)が人事に早期に共有されれば、手遅れになる前に対策を打てます。

組織全体の一体感が高まります。人事と現場が同じ方向を向いて動いている組織は、強い組織です。「うちの人事はわかってくれている」「うちの現場は協力的だ」——こうした相互の信頼が、組織の結束力を高めます。

まずは「現場に足を運ぶ」ことから始めてみてください。現場の管理職に「最近、人のことで困っていることはありませんか」と聞いてみる。そのシンプルな一歩が、壁を壊す第一歩になります。

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