
北陸で「人が採れない」と言い続けている人事が、見落としているかもしれないこと
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北陸で「人が採れない」と言い続けている人事が、見落としているかもしれないこと
「求人を出しても応募がこない」「なんとか採用しても半年で辞めてしまう」——北陸の人事担当者から、こういった声を耳にする機会が増えています。
採用難は全国共通の悩みですが、北陸には北陸ならではの文脈があります。そしてその文脈を無視したまま、都市部と同じ採用手法を持ち込んでも、なかなかうまくいかないのではないでしょうか。
北陸ならではの採用の文脈
北陸三県(富山・石川・福井)の雇用環境は、ある意味で独特です。
地元への定着率が比較的高く、転勤や単身赴任が少ない文化があります。製薬・医療機器、精密機械・金属加工、伝統工芸など、特定の産業が地域経済を支えています。2024年の北陸新幹線の敦賀延伸によって、関西圏との人の流れが変わりつつあります。
こうした環境下での採用課題は、単純に「求人媒体を増やせばいい」という話ではありません。地域の産業構造と人の価値観を理解した上で、採用の入口から出口までを設計し直すことが求められているのではないかと思っています。
なぜ今、採用課題に向き合う必要があるのか
採用がうまくいかないことのコストは、実は思っているより大きいはずです。
中途採用1名のコストは、求人広告費・選考工数・入社後の立ち上がりコストを合わせると、年収の2〜3割に相当するとも言われます。さらに離職が続けば、残った社員の負荷が高まり、チームのパフォーマンスが落ちる。売上への影響が出始めるまで時間はかかりますが、確実にじわじわと効いてきます。
北陸では特に、技術継承を担う中堅社員層の採用・定着が難しくなっています。職人文化を持つ老舗企業では、採用が一人滞るだけで技術の断絶リスクが生まれる。これは経営リスクそのものです。
実践に向けた3つの視点
視点1:「誰に来てほしいか」を具体化する
「即戦力が欲しい」「コミュニケーション能力がある人」——こういった要件定義を見ると、採用がうまくいかない理由の一端が見えてくることがあります。
求める人物像が抽象的だと、選考基準がぶれる。選考基準がぶれると、面接官ごとに評価が変わる。そして入社後に「思っていた人と違う」となる。
まず「どんな仕事を、どのレベルで、どんな環境でやってもらいたいのか」を書き出すことから始めるといいかもしれません。現場のマネージャーと一緒に議論すると、人事だけでは見えていなかった視点が出てくることが多いです。
視点2:北陸の「動機」に合わせたメッセージを届ける
北陸で働く人、あるいは北陸にUターンを考えている人の動機は、都市部の求職者とは少し異なります。
「地元に貢献したい」「家族と近くにいたい」「職人的な仕事で手に職をつけたい」——こういった動機に響くメッセージを採用広告や求人票に込めているでしょうか。
会社の規模や給与だけでなく、「この会社で働くことの意味」を具体的に語る企業が、優秀な人材に選ばれている印象があります。
視点3:採用後の「定着」まで設計に入れる
採用と定着は別物のように扱われがちですが、実は一体です。
「なぜこの人を採ったのか」「どう活躍してもらいたいのか」が入社後に伝わっていないと、せっかく採用した人材が迷子になります。入社後3ヶ月間のオンボーディングをどう設計するかは、採用の成功率に直結します。
北陸の中小企業では、マニュアルや研修制度が整っていないケースも少なくありません。それ自体は問題ではありませんが、「受け入れる側の準備」をしておくことは、採用投資の回収率を高めることにつながります。
ある北陸の企業での話
石川県のある精密機械メーカーは、長らく「応募は来るが採れない」という状態が続いていました。
人事担当者が現場に入って観察すると、選考での評価基準が担当者ごとに違っていたことが原因のひとつでした。「なんとなく合わない気がした」という直感的な不採用が、実は自社文化に合う人材まで弾いていた可能性がありました。
そこで現場リーダーを交えて「活躍している社員の共通点」を言語化し、面接評価シートを作り直しました。3ヶ月後には採用率が上がり、入社後の定着率にも変化が出始めたといいます。大きな施策ではなく、「見えていなかったものを見えるようにする」作業だったと、その担当者は話していました。
北陸特有の採用コスト構造を理解する
採用の判断を正確にするためには、コストの全体像を把握しておくことが役立ちます。北陸の中小製造業や伝統産業では、採用1名あたりのコストが思っている以上に積み重なっているケースが多いです。
求人媒体への掲載費(ハローワーク利用でも事務工数コストが発生)、選考に費やす管理職・人事の時間、入社後の研修・OJT期間の生産性損失——これらを合計すると、中途採用1名で80〜150万円規模になることは珍しくありません。技術職や専門職ならさらに高くなることもあります。
北陸の製造業では、精密機械加工や医薬品製造といった専門技術を持つ人材の採用コストは特に高くなりがちです。金属加工や射出成形の現場技術者は、即戦力になるまでに1〜2年かかることも多く、その育成期間のコストも含めれば、一人あたり200万円を超えることも珍しくありません。
「採用コストをかけないこと」より「採用した人が長く活躍すること」に目を向けると、定着支援への投資が割に合うという計算が成り立ちやすくなります。人事が経営にコスト試算を示せると、「採用予算」の議論の質が変わります。
北陸の冬季・季節要因が採用に与える影響
北陸の採用を考えるとき、見落とされがちな要因があります。それが「季節性」です。
豪雪地帯である富山・石川・福井では、冬季の通勤環境が採用候補者の意思決定に影響することがあります。「雪が積もったら毎日どのくらいかかるのか」「公共交通機関はどの程度使えるのか」——これらを正直に伝えられている企業は意外と少ないです。
特に都市部からのUIターン候補者は、北陸の冬をリアルに想像できていないことが多い。入社後に「これほど大変だとは思わなかった」と感じて離職するケースの一因になっていることもあります。求人票や採用面談の段階で、冬季の通勤・生活環境について率直に伝えることが、長期定着につながる誠実な採用広報のあり方です。
逆に言えば、「北陸の冬も含めて好きになってくれる人」を採用できれば、定着率は格段に上がります。「うちの地域の厳しさも魅力も両方伝えた上で来てくれた人」という文脈で採用できている企業は、3年後の在籍率が高い傾向があります。
また、水産・農業・観光業など季節変動のある産業では、繁閑に応じた採用計画が必要になります。漁期や農繁期に合わせた短期・季節雇用の設計は、年間を通じた採用戦略の一部として組み込んでおくと、採用のタイムラグを減らせます。
採用広報:北陸の産業の誇りを言葉にする
採用候補者に自社を選んでもらうためには、「求人票を出す」だけでは不十分な時代になっています。採用広報——つまり「会社の魅力を継続的に発信すること」が、採用の入口を広げるためにますます重要になっています。
北陸の中小企業が採用広報で活かせるのは、「地域に根ざしたものづくりの誇り」です。
富山の薬業文化、石川の伝統工芸(金沢漆器・輪島塗・九谷焼)、福井の眼鏡フレーム産業や繊維産業——これらは全国的にも希少な産業です。「この技術は日本でここにしかない」「この製品は世界中で使われている」という事実を、採用広報に組み込めている企業はまだ多くありません。
SNS(Instagram・LinkedIn)やnote、自社採用サイトで、現場社員の仕事の様子や技術へのこだわりを発信することが、都市部の大手企業とは違う「北陸ならではの採用競争力」になります。「規模は小さくても、仕事の誇りが大きい会社」という印象を積み重ねることが、採用候補者の心を動かします。
よくある失敗パターン
「求人媒体を増やせば解決する」と考えてしまう
媒体を増やすと応募数は増えますが、採用課題の根本が変わるわけではありません。むしろ選考工数が増えるだけで疲弊するケースもあります。
採用基準を「現場任せ」にしてしまう
人事が関与せず、現場の好みだけで採用が決まると、組織全体のバランスが崩れることがあります。
入社後のフォローを「現場に丸投げ」にする
「後はよろしく」という受け渡しでは、せっかく採用した人材が孤立してしまいます。最初の3ヶ月は特に、人事が伴走する仕組みがあると違います。
採用ブランディング:求職者に「選ばれる会社」になる
北陸の中小企業が採用競争力を高めるためには、「求人を出す」だけでなく「会社の魅力を継続的に発信する」採用ブランディングの視点が重要になっています。
採用ブランディングとは、自社が「どんな会社か」「どんな人が働いているか」「何を大切にしているか」を求職者に伝え続けることで、「この会社で働いてみたい」という認知と興味を育てる活動です。
北陸の製造業・伝統産業の「現場の魅力」は、発信できていれば強いコンテンツになります。職人が仕事をしている場面・製品ができあがるまでの工程・地域との関わりのエピソード——こういったコンテンツをSNSやYouTubeで発信している北陸企業の中には、採用応募数が以前より増えたという声もあります。大きな予算がなくても、スマートフォンと継続する意志があれば始められます。
採用ブランディングは「すぐに効果が出るもの」ではありませんが、「いつか転職を考えたとき、あの会社が候補に入る」という「採用候補者のストック」を積み上げる活動です。北陸の製造業・伝統産業には、発信できていない魅力が多く眠っています。それを言語化し、発信することが、中長期の採用力を高める投資になります。
採用を「経営戦略」として位置づける
採用がうまくいかない企業の多くで共通するのは、「採用を人事の仕事」として完結させてしまっていることです。しかし、採用は本質的に「事業戦略の実行手段」です。
「来年どんな事業をやるか」「どのラインを増強するか」「新しい取引先を開拓するか」——こういった経営の意思決定の後ろに、「そのためにどんな人が必要か」という採用計画がつながっているのが理想の姿です。
北陸の中小企業では、経営者が採用に直接関わっていることが多いです。これは「採用と経営の意図を一致させやすい」という強みです。人事担当者が「来年の事業計画に対して、どんな人材が必要ですか」と経営者に問いかけることから、採用と経営の対話が始まります。
年に一度、採用計画を事業計画と並走して作る仕組みを持てると、「なんとなく人が足りないから採用する」から「この事業目標のために、この時期までにこのスキルを持つ人を採る」という計画的な採用に変わっていきます。その変化が、採用投資の精度を高め、結果として採用コストの効率化につながります。
面接の精度を上げる:構造化面接の考え方
「面接をしたが、入社後に思っていた人と違った」——この悩みの背景に、面接の設計の問題が潜んでいることがあります。
構造化面接とは、「全員に同じ質問を、同じ基準で評価する」面接の設計手法です。「あなたの強みは何ですか」のような漠然とした質問より、「過去に職場でチームの意見が割れた時、どう対応しましたか。具体的なエピソードを教えてください」のような「過去の行動事実を聞く質問」の方が、入社後の活躍との相関が高いとされています。
北陸の精密機械・製薬・伝統工芸産業で「活躍している社員の共通点」を言語化し、その行動を引き出す質問を面接に組み込むことが、採用精度の向上につながります。「技術の正確さへのこだわり」「長期的な視点で仕事に取り組む姿勢」「地域や会社への帰属意識」——こういった要素を確認する質問を設計しておくことが、北陸の企業文化に合う人材を見つける助けになります。
面接は「直感」だけに頼らなくていい。評価基準を事前に言語化することが、採用の再現性を高めます。
「事業を伸ばす人事」を北陸から
北陸の産業が持つ強みは、「地に足のついた技術力」と「地域との深いつながり」だと思っています。
その強みを活かす人材を採り、育て、定着させる——それができる人事は、会社の成長に直接貢献できます。採用課題は「頭が痛い問題」ではなく、「事業の伸び代を見つける作業」として捉え直してみると、取り組み方が変わるかもしれません。
最初から全部うまくいかなくていいと思います。一つひとつ「見えていなかったもの」を言語化していくことが、北陸の人事から変化を起こすきっかけになるのではないでしょうか。
もっと深く学びたい方へ
採用設計・人材要件の定義・定着支援まで、実践的な視点で人事の仕事を体系的に学べる場があります。
人事のプロ実践講座では、経営数字と連動した採用戦略の立て方を、北陸を含む地方企業の事例も交えながら学ぶことができます。
採用・育成・評価・制度設計など、人事の幅広いテーマに関する書籍・記事・事例を集めた人事図書館も、日々の実務のヒントになるかもしれません。
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