UIターン採用で「期待と現実のギャップ」が生まれやすい理由と、北陸企業にできること
採用・選考

UIターン採用で「期待と現実のギャップ」が生まれやすい理由と、北陸企業にできること

#1on1#採用#評価#研修#経営参画

UIターン採用で「期待と現実のギャップ」が生まれやすい理由と、北陸企業にできること

「せっかくUIターンで来てくれたのに、1年で辞めてしまった」

北陸の人事担当者から、こういう言葉を聞くことがあります。UIターン採用に力を入れて、丁寧に選考して、迎え入れた人材が早期離職してしまう——このつらさは、当事者でないとなかなかわからないと思います。

でも、その「ギャップ」が生まれる理由は、多くの場合、採用プロセスの中に潜んでいることが多いのではないかと感じています。


北陸ならではのUIターン採用の文脈

2024年の北陸新幹線の敦賀延伸によって、北陸と首都圏・関西圏の物理的な距離は縮まりました。「移住」のハードルが少し下がり、UIターン候補者の裾野が広がったという声も聞きます。

一方で、北陸には「地元に帰りたい」という潜在的なUターン希望者が一定数いるのも事実です。進学や就職で都市に出た若者が、結婚・出産・親の介護などのライフイベントをきっかけに地元への帰還を考える。そのタイミングで「この会社で働きたい」と思ってもらえるかどうかが、UIターン採用の鍵になります。

北陸の伝統産業(漆器・染め物・陶磁器・和紙)や製薬・医療機器産業には、都市部にはない「固有の技術」と「ものづくりの誇り」があります。この魅力を伝えられている企業は、UIターン採用に強い印象があります。


なぜ今、UIターン採用の設計を見直す価値があるか

UIターン採用者が早期離職すると、採用コストの損失だけでは済みません。

一般的に、中途採用者が戦力になるまでには3〜6ヶ月かかります。UIターン採用の場合、本人が住む場所を変えてまで来てくれているわけです。その人材が離職すれば、採用コスト・教育コストに加え、本人と会社の双方に対するダメージがあります。採用担当者が「また失敗してしまった」と感じて消耗していくリスクも見逃せません。

逆に、UIターン採用がうまくいくと、その人が「北陸に帰ってよかった」と周囲に語る。それが次の採用候補者に届く——採用のポジティブサイクルが生まれることもあります。


実践に向けた3つの視点

視点1:「移住後の生活」まで含めた情報提供を

UIターン採用で起きるギャップの多くは、「仕事の内容」よりも「生活環境」に関するものが多いと感じます。

「思ったより車が必要だった」「地域のコミュニティに入るのが大変だった」「子どもの教育環境が想像と違った」——こういったことが、早期離職の引き金になることがあります。

仕事の魅力を伝えるだけでなく、「北陸で暮らすとはどういうことか」を正直に伝える会社が、長期定着につながるUIターン採用を実現しやすいのではないでしょうか。

視点2:面接で「なぜ北陸に帰るのか(来るのか)」を丁寧に聞く

「転職先を探していたら北陸の求人が目に入った」というケースと、「地元の産業に貢献したいという思いが長年あった」というケースでは、入社後の定着率が変わります。

動機の深さを評価することは、良し悪しをジャッジするためではなく、「この人にとって北陸での働き方がフィットするか」を一緒に確認するためです。応募者にとっても、自分の動機を言語化できる場が、入社の意思決定に役立ちます。

視点3:受け入れ側の「地域サポート」を整える

UIターン者が北陸に来て最初に戸惑うのは、仕事よりも「生活の段取り」であることが多いです。

住まい探し、役所の手続き、子どもの保育園・学校探し——こういったことをサポートできる仕組みを会社として持てるかどうか。採用後3ヶ月は特に、仕事以外の面でも伴走できると、定着率が上がる傾向があります。自治体が提供している移住支援制度と連携するのも一つの手です。


ある北陸の企業での話

福井県のある繊維関連企業では、都市部から来たデザイン職のIターン採用者が、2年以内に全員離職するという状態が続いていました。

採用後のヒアリングをしてみると、「会社の仕事は好きだが、生活の拠点を作るのが難しかった」という声が多かったといいます。車の手配、住まいの確保、地域との接点——こういったことを全て本人任せにしていたことが、消耗の原因になっていたようです。

そこで同社は、入社前から「生活立ち上げチェックリスト」を作成し、担当者が伴走する体制を整えました。結果として定着率が改善し、「ここで腰を落ち着けて働きたい」という声が増えてきたといいます。


UIターン採用のコスト構造とROI

UIターン採用が早期離職に終わると、コストの損失はどれくらいになるでしょうか。

求人媒体への掲載費・エージェント手数料(年収の30〜35%が相場)・選考工数・入社後の研修コスト——これらを積み上げると、UIターン採用1名あたり100〜180万円程度のコストがかかることがあります。さらに、本人が「移住」という決断をして入社してきた場合、企業が引っ越し支援や住宅補助を提供しているケースも多く、追加コストが発生します。

この人材が1年以内に離職すると、採用コストはほぼ全額が損失になります。一方、3年以上定着してくれれば、その人材が会社にもたらす価値——技術力、都市部での経験・視点、外部ネットワーク——はコストを大きく上回ることが多いです。

UIターン採用者の定着率を高めることへの投資(生活支援の仕組み、オンボーディングの設計)は、採用コストの「回収率」を上げるための施策として、経営に伝えやすい論理を持っています。


北陸の自治体連携:移住支援制度を活用する

UIターン採用を後押しする制度として、北陸各県・市町村の移住支援策を把握しておくことが、採用設計の選択肢を広げます。

富山県・石川県・福井県・新潟県では、それぞれ移住希望者向けのポータルサイトや移住相談窓口を設けており、企業とのマッチング支援を行っているケースもあります。「地方創生移住支援事業」(国の制度)による移住支援金(単身最大60万円、世帯最大100万円)が活用できるケースもあり、UIターン候補者の意思決定を後押しすることがあります。

北陸新幹線の敦賀延伸(2024年3月)以降、金沢・富山・福井の各都市が首都圏・関西圏からのアクセス改善によって移住先としての注目度が上がっています。「新幹線でアクセスしやすくなったが、まだ大都市圏ほど物価が高くない」という北陸の特性は、UIターン候補者にとっての魅力になりえます。

自治体の移住支援担当者と連携関係を持っておくと、「移住を検討しているが就職先を探している」という潜在的な候補者へのリーチが広がることがあります。これはコストをかけずに採用チャンネルを増やす方法の一つです。


UIターン者が「北陸のファン」になるまで

UIターン採用の最終的な成功は、「採用できた」ではなく「その人が北陸の暮らしと仕事を好きになってくれた」です。

仕事への満足度はもちろん大切ですが、「北陸に来て良かった」という生活の充実感が定着につながります。地元の食文化(富山の寒ブリ、越前蟹、治部煮)、自然環境(立山連峰、日本海の夕日)、伝統文化(金沢の茶道・芸妓文化、輪島の朝市)——こういった地域の魅力を会社として紹介したり、社員同士のコミュニティ形成を支援したりすることが、「北陸愛着」の醸成につながります。

定着したUIターン者が「ここに来て良かった」と周囲に伝える——それが次のUIターン採用の最大の広報になります。人事が作るものは「採用の仕組み」だけでなく、「住んで良かったと思える会社と地域の関係」でもあります。そこまで視野を広げた設計が、北陸のUIターン採用を中長期で機能させる鍵になるのではないかと思います。


よくある失敗パターン

「北陸は住みやすい」という抽象的なアピールに終始する

「自然が豊か」「食べ物がおいしい」だけでは、求職者の意思決定には刺さりません。具体的な生活コスト、通勤時間、子育て環境のデータを一緒に示す方が誠実です。

選考で「志望動機」だけを聞いて満足してしまう

北陸(または地元)への思いを確認するのは大切ですが、「転職後の具体的なビジョン」や「生活設計」についても話し合えると、ミスマッチを減らせます。

入社後のフォローを「現場任せ」にする

UIターン採用者は、仕事とプライベートの両面でサポートが必要な時期があります。人事が定期的に1on1を設けるだけでも、孤立感を防ぐ効果があります。


採用広報での「北陸の暮らし」の伝え方

UIターン採用を成功させるためには、「仕事の魅力」だけでなく「北陸の暮らしの魅力」を採用広報に組み込むことが効果的です。

北陸の暮らしの具体的な魅力として、求職者に伝わりやすいものをいくつか挙げてみます。まず、生活コストの相対的な低さです。首都圏と比べて家賃・食費・生活費が低い北陸では、「同等の給与でも手取り感が高い」という実感があります。「都市圏と同じ給与で、より豊かな生活ができる」というメッセージは、子育て世代への訴求力があります。

次に、食文化の豊かさです。富山の白えびや寒ブリ、越前蟹、治部煮、輪島の朝市——北陸は「食の宝庫」として全国的な認知度が高まっています。「食べ物がおいしい地域に住む」という価値を、採用広報の中で具体的に伝えることが、都市部からの移住者の心を動かすことがあります。

また、自然環境へのアクセスの良さです。立山連峰・日本海・兼六園——週末に本物の自然や文化に触れられる環境は、都市生活者にとって魅力的です。「仕事も充実、休日も充実」というライフスタイルを提示できると、働き方の価値観が変わりつつある世代に響くことがあります。

「北陸の暮らし」の魅力を発信するとき、「良いことだけ」を伝えすぎると、入社後のギャップを生む可能性があります。「冬の厳しさ・車社会の現実・都市部ほど飲食店が多くないこと」も含めた誠実な情報提供が、長期定着するUIターン者を集める上で大切です。


UIターン採用の選考で「ミスマッチ」を防ぐ対話

UIターン採用の選考で特に大切にしたい対話のポイントをいくつか挙げます。

まず「なぜ今このタイミングか」を丁寧に聞くことです。ライフイベント(結婚・出産・親の介護)が動機の場合、それは誠実な理由です。でも「北陸の仕事への興味」と「帰りたいという気持ち」のどちらが先かによって、仕事へのコミット度が変わることがあります。どちらが悪いということではなく、「会社として支えられる動機か」を確認しておくことが、お互いのためになります。

次に「5年後にどんな状態でいたいか」を聞くことです。UIターン者は、移住という大きな決断をしています。「この会社での5年後の姿」がある程度描けているかどうかが、長期定着の手がかりになります。「会社が何を提供できるか」を採用担当者が具体的に伝えながら対話することで、入社後の期待値のすり合わせができます。

また、「北陸での生活について、不安なことは何か」を率直に聞くことも大切です。「車の運転は大丈夫か」「冬の通勤についてイメージはあるか」「パートナーの仕事はどう考えているか」——こういったことを選考段階で話し合えると、入社後のギャップが生まれにくくなります。「選考で話しにくいことを話せた」という体験が、その会社への信頼感にもつながります。


採用後3ヶ月の「着地支援」が定着を決める

UIターン採用者の定着において、入社後3ヶ月間が特に重要です。仕事の立ち上がりと生活の立ち上がりが同時に起きるこの時期、「誰に何を相談すればいいか」という安心感があるかどうかが、定着に大きく影響します。

仕事面では、業務の目標と期待値を明確に伝え、早期に「小さな成功体験」を積める環境を作ることが大切です。「3ヶ月でこれができれば十分」というマイルストーンを共有しておくと、本人の不安が軽減されます。

生活面では、「地域の生活情報」を積極的に提供することが助けになります。おすすめのスーパー・医療機関・子どもの遊び場・地域のコミュニティイベント——こういった情報を「北陸生活ガイド」としてまとめておくだけでも、UIターン者の孤立感を防ぎます。先輩のUIターン社員が「生活メンター」になってくれると、より心強いでしょう。

入社1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月の節目に人事が面談を設けることも、「見守られている安心感」を生みます。仕事の調子を聞くだけでなく、「生活は慣れてきましたか」「困っていることはありますか」という一言が、大きな違いを生むことがあります。


「事業を伸ばす人事」を北陸から

UIターン採用は、北陸企業が外部の知見や感性を取り入れる大きなチャンスです。都市部での経験を持つ人材が、地域の産業に新しい視点をもたらすことがある。その可能性を活かすためには、受け入れ側の「準備」が鍵を握ります。

「採用した後が大事だ」とよく言われますが、UIターン採用においてはその言葉の重みが特に大きいと感じます。最初から完璧なサポートでなくていい。一つずつ「生活の立ち上がりを支える仕組み」を作っていくことが、北陸発のUIターン採用の質を高めることにつながるのではないでしょうか。


もっと深く学びたい方へ

UIターン採用の設計・定着支援・採用広報など、地方企業が実践できる採用戦略を体系的に学べる場があります。

人事のプロ実践講座では、採用と定着を一体で捉えた実践的なアプローチを、事例を交えながら学ぶことができます。

人事のプロ実践講座に申し込む

採用・育成・評価・制度設計など、人事の幅広いテーマに関する書籍・記事・事例を集めた人事図書館も、日々の実務のヒントになるかもしれません。

人事図書館に入会する

0

人事の知見が集まるコミュニティで、実践知を学びませんか?

人事図書館は、人事のプロフェッショナルが集まる学びのコミュニティです。

関連記事

北陸の企業が「内定辞退」を減らすための採用プロセス改善
採用・選考

北陸の企業が「内定辞退」を減らすための採用プロセス改善

最終面接を通過して内定を出した。本人も嬉しそうだった。なのに1週間後に辞退の連絡が来た——石川県のある機械メーカーの人事担当者が、肩を落としてそう話していたことがあります。

#採用#経営参画#キャリア
北陸の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法
採用・選考

北陸の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法

毎年、同じような求人票を出して、同じような人を採っている。でも本当にこの採用で合っているのか、自信がない——福井県のある機械部品メーカーの人事担当者が、そう打ち明けてくれたことがあります。

#採用#評価#研修
北陸の中小企業が中途採用の選考プロセスを最適化する方法
採用・選考

北陸の中小企業が中途採用の選考プロセスを最適化する方法

中途採用で良い人が来たと思っても、途中で辞退されてしまう。最終面接まで進んだのに、連絡が途絶えた——福井県のあるメーカーの人事担当者が、落胆した様子でそう語っていたことがあります。

#採用#評価#キャリア
北陸のコールセンター企業がオペレーター定着率を高める方法
採用・選考

北陸のコールセンター企業がオペレーター定着率を高める方法

採用しても3ヶ月で半分が辞めてしまう。研修コストばかりかかって、ようやく一人前になった頃に退職届が出る——金沢市にあるコールセンター運営会社の人事マネージャーが、深刻な表情でそう語っていたことがあります。

#採用#評価#研修