北陸の企業が採用力を高めるために——新幹線延伸後の人材流動と地元採用の工夫
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北陸の企業が採用力を高めるために——新幹線延伸後の人材流動と地元採用の工夫

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北陸の企業が採用力を高めるために——新幹線延伸後の人材流動と地元採用の工夫

北陸新幹線の敦賀延伸(2024年3月)によって、北陸と首都圏・関西圏のアクセスが劇的に改善された。この変化は北陸の企業にとって「両刃の剣」だ。優秀な人材が北陸に来やすくなった一方で、地元の若者が一層スムーズに東京や大阪へ出ていける環境も整った。富山・石川・福井の中小製造業では、この「人材流動の加速」をどう捉え、採用戦略に落とし込むか——その問いに答えを持っている企業とそうでない企業の差が、これから3〜5年で顕在化してくる。採用の「量」を確保することより、「地域で働く意味」を伝えきれる会社が残る時代に入りつつある。


なぜ今、北陸の採用が変わり目なのか

北陸新幹線の敦賀延伸が動いたのは2024年3月。福井が東京からおよそ2時間半でつながるようになった。富山・金沢はすでに2015年の開業以来、移動のハードルが下がっていたが、今回の延伸で北陸全体が「新幹線圏」に入ったことになる。

この変化が採用に与えるインパクトは、「採れる範囲が広がった」だけではない。「失う可能性が高まった」という側面を先に直視する必要がある。

金沢や富山の地元大学を卒業した学生が、大阪・神戸に通勤圏の感覚で就職するケースが増えている。福井でも同様で、「北陸に残る」という選択の競合相手が、地元企業だけでなく関西の大企業・中堅企業になってきた。

採用担当者として、この構造変化をまず数字で押さえておく必要がある。例えば富山県の20代転出超過数は近年一貫してプラスで推移しており、若年層の流出が止まっていない。石川・福井も同傾向だ。この流れに対して「うちは地元密着だから大丈夫」という楽観は、もはや通用しない。


北陸の製造業が「採用で負ける」理由を整理する

北陸の基幹産業は製造業だ。富山の化学・薬品・金属加工、石川の機械・繊維・伝統工芸、福井の繊維・眼鏡・樹脂加工——各県にそれぞれの産業クラスターがある。

ただし、この製造業の特性が採用の足かせになっているケースも多い。

採用に時間をかけられない現場:製造ラインを止めることへの抵抗感が強く、採用担当者が現場から離れる時間を確保しにくい。結果として、採用活動が後手に回る。

「給与水準が低くはないが、東京・大阪に比べると見劣りする」というジレンマ:北陸の製造業は実は賃金水準がそこまで低くないが、都市部との比較では依然として差がある。絶対額で語ると不利になるため、「生活コスト込みの可処分所得」で語り直す必要があるが、そこに踏み込んでいる企業は少ない。

「モノづくりの面白さ」が伝わっていない:北陸の製造業は技術的に高度な領域を持っている会社が多い。しかし採用広報でその面白さを言語化できておらず、「地味で安定」というイメージのまま留まっている。


地元採用で成果を上げている企業がやっていること

では実際に採用力を高めている北陸の中小企業は何をやっているか。いくつかのパターンを整理する。

高校・地元大学との関係構築を「受験前」から始める

採用は「4月入社の前年3月まで」に完了させるものではない。地元の高校・高専・大学との接点を、在校中から丁寧に作っている企業が成果を上げている。インターンシップだけでなく、授業への協力、工場見学の受け入れ、教員への会社紹介——こうした地道な関係構築が、5〜10年後の採用パイプラインになる。

「北陸で働くこと」の価値を経済合理性で説明する

「自然が豊か」「食がおいしい」というライフスタイル訴求は悪くないが、それだけでは刺さらない。「東京23区に住んだ場合の家賃・保育費と比べると、富山市内に住んだ場合は月に8〜12万円の差がある。この差は生涯で見ると相当な可処分所得の差になる」——こういう経済合理性の説明ができる会社は候補者の記憶に残る。

UターンIターンを「現実として」支援する仕組み

「地元に戻りたいけど、北陸で自分のキャリアが積めるか不安」という人が多い。この不安を払拭するのは、先輩社員の実際のキャリアパスを見せることだ。「入社5年でこのポジションに就いた」「入社8年で工場の生産管理全体を任された」といった具体的な軌跡を示すことが、都市部から戻ってくる人材の背中を押す。


新幹線延伸後に変わった「転職市場」への対応

新幹線延伸は、転職市場にも影響している。以前は「北陸で転職する」というと選択肢が限られていた。しかし今は東京・大阪のエージェントが北陸在住者にアプローチしやすくなり、北陸在住のビジネスパーソンが都市部の求人を検討しやすくなった。

これは中途採用でも同様で、北陸の企業が都市部の人材を採用しやすくなった一方で、北陸の優秀な人材が都市部の企業に引き抜かれるリスクも高まった。

この環境下で中途採用を機能させるポイントは以下の3点だ。

  1. 面接から入社まで1ヶ月以内に完結させる:選考が長引くほど都市部の競合企業に持っていかれる。特に30代の転職活動者は選考スピードに敏感だ。

  2. 「採用後の初期定着」に人事が関与する:Iターン採用の場合、生活面の不安(子育て、医療、地域コミュニティ)が離職の遠因になることが多い。入社後3ヶ月の定期面談や、地域の生活情報をまとめた自社独自のオンボーディング資料は、コストをかけずに定着率を上げる手段になる。

  3. 採用媒体の組み合わせを変える:北陸特化のエージェント(例:とやま求人など地域密着型)と、広域・全国媒体を組み合わせる。全国媒体一本槍でも、地域媒体一本槍でも、母集団形成に偏りが生まれる。


北陸の製造業で「採用ブランド」を作る方法

採用ブランドという言葉を使うと大企業の話に聞こえるが、本質は「自社で働くことの価値を言語化して、一貫して発信し続けること」だ。

北陸の中小製造業でこれをやろうとすると、まず「何が自社の価値か」を整理するところから始まる。これが実は難しい。現場の人たちは「うちは普通の会社ですよ」と言うが、外から見ると独自の技術や職人的な仕事の面白さがある場合が多い。

採用ブランドを作る最初のステップは、「現場で働いている人の言葉を集める」ことだ。なぜこの仕事を続けているか、入社前と入社後でギャップはあったか、どんなときに手ごたえを感じるか——こうした質問を通じて集めた言葉は、マーケティング的に作られた採用コピーより遥かに候補者に刺さる。

北陸の製造業の場合、「職人的なこだわり」「静かだが確かな技術力」「チームで一つの製品を完成させる達成感」——こういう言葉が現場から出てくることが多い。これをそのまま採用サイトやIndeedの求人票に落とし込むだけで、発信の質が変わる。


採用コストと採用効果を「数字」で把握する

採用力を高めるには、現状の採用コスト構造を把握することが前提になる。ところが、北陸の中小企業の人事担当者と話すと、自社の採用コストを正確に把握していない場合が多い。

採用コストには直接コスト(求人広告費、エージェント費用、採用ツール費)だけでなく、間接コスト(採用担当者の工数、面接官の工数、オンボーディングの工数)も含まれる。これを合算すると、中途採用1人あたりのコストは中小企業でも100万円を超えることが珍しくない。

この数字を経営層と共有することで、採用への投資判断が変わる。「また求人出しますか」という話ではなく、「採用コスト100万円を下げるために何に投資するか」「定着率を上げてコストを圧縮するか」という経営会議の議題にできる。

採用担当者が経営から「採用、うまくいってる?」と聞かれたときに、「3ヶ月で2名採用できました」ではなく「採用コスト一人あたり80万円を55万円に下げました、定着率は1年で85%です」と答えられるかどうかで、人事の存在感は大きく変わる。


まとめ——北陸で採用力を高めることの本質

新幹線延伸後の北陸は、採用環境が「東京に近い競争環境」へと変化しつつある。この流れに乗れるかどうかは、採用を「定員を埋める作業」から「事業に必要な人材を計画的に確保する経営機能」に変えられるかどうかにかかっている。

そのためには、採用の数字を経営言語で語れるようになること、地域の特性(生活コスト、キャリアパス、地元とのつながり)を強みとして言語化すること、そして現場の人たちの言葉を採用発信に使うこと——この3点が起点になる。

「東京の採用ノウハウをそのまま北陸に持ってきた感」は候補者に伝わる。北陸の文脈で、北陸の言葉で採用を語る会社が、これからの採用戦線で優位に立つ。


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