北陸の食品メーカーが「繁忙期に人が足りない、閑散期に人が余る」問題を解くための人事設計
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北陸の食品メーカーが「繁忙期に人が足りない、閑散期に人が余る」問題を解くための人事設計

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北陸の食品メーカーが「繁忙期に人が足りない、閑散期に人が余る」問題を解くための人事設計

「かまぼこの繁忙期は年末だけど、そのために通年で人を抱えるわけにもいかない」「夏場の水産加工は人手がいるのに、冬場は仕事が減る」——北陸の食品メーカーの人事担当者と話していると、こうした季節変動の悩みをよく聞きます。

北陸三県は、日本海の豊かな海産物、米どころとしての農産物、そしてそれらを活かした加工食品の産地です。富山の昆布加工やかまぼこ、石川の加賀野菜を使った食品、福井の越前がにやへしこ——地域の食文化に根ざした食品メーカーが数多くあります。

しかし、食品産業の多くは季節変動が大きく、「繁忙期に人が足りない」「閑散期に人が余る」という労務管理上の構造的な課題を抱えています。この課題に対して、「繁忙期だけパートを増やす」という対症療法で対応し続けることには限界があります。

私は500社以上の企業の人事に関わってきましたが、季節雇用の最適化は「採用テクニック」の問題ではなく、「事業構造と人員計画の設計」の問題だと感じています。


北陸の食品産業の季節変動を理解する

北陸の食品メーカーが直面する季節変動には、いくつかのパターンがあります。

「原材料の季節性」に起因する変動があります。水産加工業では、漁期に合わせた生産のピークがあります。ブリ、ホタルイカ、ズワイガニなど、北陸の代表的な水産物にはそれぞれ旬があり、その時期に集中的な加工作業が発生します。

「消費の季節性」に起因する変動があります。おせち料理用のかまぼこや昆布巻き、お歳暮・お中元向けの贈答品など、特定の時期に需要が集中する製品があります。年末のかまぼこ生産は、通常期の数倍の生産量になる企業もあります。

「農産物の収穫期」に起因する変動があります。米菓や農産物加工品のメーカーは、秋の収穫期に原材料が大量に入ってくるため、加工のピークが偏ります。

これらの季節変動に対して、「繁忙期に合わせた人員を通年で雇用する」のは人件費の面で非効率です。かといって「閑散期に合わせた最小限の人員で通年を回す」のでは繁忙期に対応できません。この「谷と山」をどう埋めるかが、食品メーカーの人事の腕の見せどころです。


季節雇用の「隠れたコスト」を可視化する

季節雇用に頼り続けることの問題は、「目に見えるコスト」だけでなく「隠れたコスト」にあります。

目に見えるコストは、繁忙期のパート・アルバイトの採用コスト(求人広告、面接工数)と時給・日給です。これだけを見ると「繁忙期だけ人を増やせば安上がり」に見えるかもしれません。

しかし、隠れたコストがあります。

「毎年の採用・教育のコスト」です。季節雇用を毎年繰り返すということは、毎年新しい人を採用し、毎年基本的な作業を教え直すということです。食品工場では衛生管理、作業手順、品質基準の教育が不可欠であり、この教育コストが毎年繰り返し発生します。

「品質リスク」も無視できません。経験の浅い季節雇用者が増える繁忙期は、品質管理上のリスクが高まります。食品の品質事故が発生した場合のコスト——廃棄、リコール、信頼失墜——は甚大です。

「正社員の負荷増大」もあります。季節雇用者の管理・指導は正社員が担います。繁忙期に自分の業務に加えて季節雇用者のマネジメントも行うことで、正社員の疲弊が蓄積します。

「採用難の深刻化」は近年特に大きな問題です。北陸の労働市場は逼迫しており、繁忙期だけの短期雇用に応じてくれる人材の確保自体が難しくなっています。

これらの隠れたコストを合計すると、「繁忙期にパートを増やす」という方法が思っているほど安くないことがわかります。人事が経営にこの「総コスト」を示すことで、より構造的な対策への投資判断を促すことができます。


季節雇用と通年雇用を最適化する5つのアプローチ

季節変動への対応は、「季節雇用だけ」「通年雇用だけ」のどちらかに偏るのではなく、複数のアプローチを組み合わせることが現実的です。

アプローチ1:通年雇用の「多能工化」

通年雇用の社員を、複数の工程や製品ラインを担当できる「多能工」として育成する方法です。

繁忙期には生産ラインに集中し、閑散期には品質管理、設備メンテナンス、新製品開発、営業支援など、生産以外の業務を担当する。このように「仕事の幅」を広げることで、閑散期の「余剰感」を解消し、通年で有意義な業務を割り当てられます。

多能工化のためには、スキルマップの作成と計画的なローテーション研修が必要です。「この人は製造だけでなく品質検査もできる」「あの人は営業事務もできる」——こうしたスキルの可視化が、人員配置の柔軟性を高めます。

アプローチ2:季節雇用の「固定化」

季節雇用を「毎年新しい人を採用する」のではなく、「毎年同じ人に来てもらう」仕組みを作る方法です。

農閑期の農業従事者、冬季に仕事が減る建設業の作業員、子育て中で特定の時期だけ働きたい方——こうした「繁忙期だけ働きたいニーズ」を持つ人と長期的な関係を築くことで、毎年の採用・教育コストを削減できます。

「登録制の季節雇用者プール」を作り、前年の経験者に優先的に声をかける仕組みは、食品メーカーでは比較的導入しやすいです。経験者であれば教育コストが大幅に削減でき、品質リスクも低下します。

アプローチ3:生産の「平準化」

季節変動のある需要に対して、生産スケジュールをできるだけ平準化する方法です。

年末に需要がピークを迎えるかまぼこであれば、冷凍・チルド技術を活かして、閑散期に前倒しで生産し在庫を持つ。季節限定品の生産開始時期を早める。新しい通年商品を開発して、閑散期の生産ラインを稼働させる——こうした生産計画の工夫により、人員の山と谷を緩やかにできます。

これは製造部門の課題に見えるかもしれませんが、「人員配置の最適化」という観点から人事が製造部門に提案する価値のあるアプローチです。

アプローチ4:外部リソースの戦略的活用

派遣社員、業務委託、シェアリングエコノミー型の労働力マッチングサービスなど、外部リソースを繁忙期に活用する方法です。

人材派遣会社との年間契約を結び、繁忙期のスタッフ確保を事前に予約しておく。食品工場に特化した人材派遣サービスを活用する。地域の同業者間での「人材シェアリング」(繁忙期が異なる企業間での社員の融通)——こうした方法が考えられます。

アプローチ5:テクノロジーによる省人化

自動化・機械化によって、繁忙期の人手依存度を下げる方法です。

食品工場のうち、反復的な作業(計量、包装、箱詰め、ラベル貼り)は、自動化の余地が大きい領域です。自動化投資は初期コストがかかりますが、長期的には人件費の削減と品質の安定に寄与します。


ある北陸の食品メーカーでの話

富山県のある水産加工メーカーの事例をお話しします。

この企業は、ホタルイカの佃煮やかまぼこの製造を主力事業としていました。春のホタルイカ漁期と年末のかまぼこ繁忙期に生産がピークを迎え、その時期は通常の2倍以上の人手が必要でした。毎年、繁忙期前になると「人が集まらない」という問題に悩まされていました。

この企業の人事担当者と一緒に取り組んだのは、まず「年間の人員需要カーブ」の可視化でした。月ごとに必要な人員数をグラフにし、「通年で必要な基本人員」と「繁忙期に追加で必要な人員」を明確に区分しました。

結果として、以下の対策を組み合わせました。

通年雇用の社員には多能工化研修を実施し、閑散期には新製品の試作、営業同行、品質管理データの分析など、生産以外の業務を担当してもらうようにしました。「閑散期にやることがない」という状態がなくなったことで、通年雇用の社員の満足度が向上しました。

季節雇用については、「経験者の優先再雇用制度」を導入しました。前年の繁忙期に働いてくれた方に、シーズン3ヶ月前に「今年もお願いできますか」と連絡する仕組みです。これにより、経験者の再雇用率が約60%に上がり、教育コストが大幅に削減されました。

さらに、近隣の農業法人と「人材シェアリング」の協定を結びました。農閑期(冬季)の農業従事者に、水産加工の繁忙期に来てもらう仕組みです。農業法人側も「冬場の雇用を確保したい」というニーズがあったため、双方にとってメリットのある連携になりました。

2年間でこれらの対策を組み合わせた結果、繁忙期の人手不足は大幅に改善し、季節雇用者の採用にかかるコストも前年比で約30%削減されたといいます。


人材シェアリングの可能性——北陸だからこそできる連携

前述の事例で触れた「人材シェアリング」は、北陸の食品産業において特に有効なアプローチです。

北陸には、繁忙期が異なる産業が隣接しています。水産加工(春・冬)、農業(春〜秋)、観光・宿泊業(夏・秋の観光シーズン)、建設業(春〜秋の工期)——これらの産業間で、「自社の閑散期に他社の繁忙期を手伝う」形での人材シェアリングが成り立つ余地があります。

人材シェアリングを実現するためには、いくつかの条件があります。

参加企業間での「労務管理のルール」の合意が必要です。賃金水準、労働時間、保険の扱い、指揮命令系統の整理——これらを事前に取り決めておくことで、トラブルを防げます。

「スキルの互換性」もポイントです。食品工場と農業では求められるスキルが異なりますが、基本的な作業手順を教えれば対応できるレベルの業務であれば、シェアリングが成り立ちます。

地域の商工会議所や行政が仲介役を担うことで、個社間の調整がスムーズになります。北陸の一部の地域では、すでにこうした取り組みの萌芽が見られます。


季節雇用者の「動機づけ」と「教育」

季節雇用者に対しても、「やりがい」と「学び」を提供することが、品質の維持と翌年の再雇用につながります。

「来年も来てほしい人」に対しては、シーズン終了時に「あなたの仕事ぶりは非常に助かりました。来年もぜひお願いしたいです」というフィードバックを伝えること。さらに、「今シーズンの業務評価」と「来シーズンにお願いしたい業務」を書面で伝えておくと、翌年の再雇用時のモチベーションが高まります。

教育面では、繁忙期の初日に行う「安全・衛生教育」と「作業手順研修」を標準化し、動画マニュアルを整備しておくと、指導者の負荷を減らしつつ教育の質を担保できます。経験者には「新人の教育補助」を任せることで、本人のスキルアップと帰属意識の向上にもつなげられます。


閑散期の人材活用——「守りの仕事」を仕込む

通年雇用の社員にとって、閑散期が「暇な時期」になってしまうと、モチベーションの低下や「自分は必要とされていない」という感覚につながります。

閑散期を「守りの仕事を仕込む時期」として位置づけることが重要です。

品質管理の改善活動、設備のメンテナンス・改修、製造工程の効率化の検討、新製品の企画・試作、既存製品の改良——こうした「今はできないが、やりたかった仕事」を閑散期に集中して行う計画を立てることで、社員の稼働率と成長を維持できます。

営業部門との連携も有効です。閑散期に製造部門の社員が営業に同行し、取引先の声を直接聞く。「自分が作った製品がどう評価されているか」を知ることで、製造のモチベーションと品質意識が高まります。

研修・資格取得の時間に充てることも効果的です。食品衛生管理者、HACCP管理者、フォークリフト免許——こうした資格の取得を閑散期に支援することで、社員のスキルアップと会社の人材基盤の強化を同時に実現できます。


「経営数字」で季節雇用の最適化を語る

季節雇用の最適化を経営に提案するとき、数字で語ることが説得力を持ちます。

例えば、ある食品メーカーの試算です。

繁忙期(2ヶ月間)に季節雇用者20名を毎年新規採用した場合—— 採用コスト(求人広告・面接工数):約100万円 教育コスト(研修時間×指導者の時給):約80万円 品質リスクコスト(不良率の上昇による廃棄・手直し):推定50万円 合計:約230万円/年

これに対して、「経験者再雇用制度」を導入し、20名中12名を前年からの経験者で確保した場合—— 採用コスト:約40万円(新規8名分のみ) 教育コスト:約30万円(新規8名+経験者の復習分) 品質リスクコスト:推定20万円 合計:約90万円/年

差額は約140万円です。この数字を経営に示すことで、「経験者再雇用の仕組みに投資する価値」が説明できます。


よくある失敗パターン

繁忙期の人手不足を「根性」で乗り切ろうとする

正社員に長時間の残業を強いて繁忙期を乗り切る方法は、一時的には機能しますが、社員の疲弊と離職リスクを高めます。持続可能な仕組みで対応することが必要です。

季節雇用者を「使い捨て」にする

「繁忙期が終わったら終わり」という扱いでは、翌年の人材確保が難しくなります。シーズン終了後の感謝の伝達と来年への約束が、長期的な人材確保の基盤になります。

閑散期の人員を「コスト」としか見ない

閑散期の通年雇用者を「人件費の無駄」と見るのではなく、「将来の成長のための投資期間」として活用する発想が重要です。


「事業を伸ばす人事」を北陸の食品産業から

北陸の食品メーカーが持つ「季節変動の課題」は、裏を返せば「季節の恵みを活かした事業をしている」という証でもあります。四季の変化に富んだ北陸の食文化を支える食品産業が、持続可能な形で成長していくためには、季節変動に対応できる人事の仕組みが不可欠です。

季節雇用と通年雇用の最適な組み合わせを見つけること。それは「コスト削減」のためだけでなく、「品質を維持しながら安定的に事業を成長させる」ための経営投資です。

人事が経営に対して「人員計画を年間で最適化することで、品質リスクを下げながら人件費の効率を上げられます」と語れるようになったとき、食品メーカーの人事は「コスト管理者」から「事業のパートナー」に変わります。北陸の豊かな食文化を支える人材の仕組みを、一社一社が工夫していけたらと思います。

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