
北陸の企業が「採用広報」をゼロから始める方法
目次
- なぜ今、北陸の企業に採用広報が必要なのか
- 採用広報で「何を」伝えるか
- カテゴリ1:「人」の魅力
- カテゴリ2:「仕事」の中身
- カテゴリ3:「文化」と「価値観」
- カテゴリ4:「成長」の機会
- カテゴリ5:「暮らし」の魅力
- 採用広報の「チャネル」を選ぶ
- チャネル1:自社採用サイト
- チャネル2:SNS(X、Instagram、Facebook)
- チャネル3:noteやブログ
- チャネル4:動画(YouTube)
- ゼロから始める採用広報の5ステップ
- ステップ1:「誰に届けたいか」を明確にする
- ステップ2:「自社の魅力」を棚卸しする
- ステップ3:チャネルを1〜2つに絞る
- ステップ4:コンテンツを継続的に発信する
- ステップ5:効果を測定し、改善する
- ある石川の企業が採用広報をゼロから始めた話
- 採用広報を「続ける」ためのポイント
- 採用広報の投資を「経営数字」で語る
- よくある失敗パターン
- 「事業を伸ばす人事」を北陸の採用広報から
北陸の企業が「採用広報」をゼロから始める方法
「求人を出しても応募が来ない。でも、うちの会社のことを知ってもらえたら、興味を持つ人はいるはずなんです」——富山県のある精密機器メーカーの人事担当者が、そう話していたことがあります。
北陸の中小企業が抱える採用課題の根本にあるのは、「知名度の低さ」です。東京や大阪の大手企業と比べて、北陸の中小企業は求職者に存在すら知られていないことが多い。求人サイトに掲載しても、社名を見て「知らない会社だからスルーする」——そうした見えない壁が、応募の手前で立ちはだかっています。
この壁を乗り越えるための手段が「採用広報」です。採用広報とは、求人情報の掲載にとどまらず、企業の魅力や働く人の姿を継続的に発信し、「この会社で働いてみたい」と思う人を増やす活動のことです。
私は500社以上の企業の人事に関わってきましたが、採用広報に取り組んでいる北陸の中小企業はまだ少数です。しかし、取り組んでいる企業は確実に成果を出しています。採用広報は「大企業だけのもの」ではなく、むしろ「顔が見える中小企業」だからこそ効果が出やすい取り組みです。
なぜ今、北陸の企業に採用広報が必要なのか
北陸の中小企業が採用広報に取り組むべき理由は、いくつかの構造的な変化に起因しています。
第一に、求職者の情報収集行動の変化です。かつては求人サイトやハローワークが情報源の中心でしたが、今の求職者はSNS、企業のオウンドメディア、口コミサイトなど多様なチャネルで情報を集めています。「求人票の条件」だけでなく「この会社はどんな雰囲気なのか」「どんな人が働いているのか」を知りたがっています。
第二に、「売り手市場」の長期化です。北陸三県の有効求人倍率は全国平均を上回る水準で推移しており、求職者が企業を選ぶ時代が続いています。「求人を出せば応募が来る」時代は終わり、企業側が「選ばれる」ための努力が必要です。
第三に、Uターン・Iターン人材の獲得競争です。北陸出身で首都圏に就職した人材を呼び戻す「Uターン採用」は、多くの北陸企業にとって重要な採用チャネルです。しかし、Uターンを検討している人は「北陸にどんな会社があるか」を知らないことが多い。採用広報を通じて「こんな会社がありますよ」と情報を届ける必要があります。
第四に、新卒採用市場の変化です。大学生の企業研究は、就職サイトだけでなくSNSや企業の発信コンテンツにまで広がっています。金沢大学、富山大学、福井大学の学生が「地元にこんな面白い会社がある」と気づくきっかけを、企業側が作る必要があります。
採用広報で「何を」伝えるか
採用広報で発信すべき内容は、大きく5つのカテゴリに分けられます。
カテゴリ1:「人」の魅力
求職者が最も知りたいのは、「どんな人が働いているか」です。社員インタビュー、一日の仕事の流れ、入社の経緯、仕事のやりがいと難しさ——実際に働いている人の声は、求人票の何倍も説得力があります。
北陸の中小企業の強みは、「社員一人ひとりの顔が見える」ことです。大企業の採用広報では「代表的な社員」しか紹介できませんが、中小企業なら「うちの会社のメンバーはこんな人たちです」と全体像を伝えることができます。
カテゴリ2:「仕事」の中身
「どんな仕事をするのか」を具体的に伝えます。求人票の「営業職」「製造管理」だけでは、仕事の実態はわかりません。
「朝8時に出社して、まずメールをチェックし、10時からクライアントとの打ち合わせ。午後は提案書の作成に集中し、16時からチームミーティング」——こうした具体的な一日の流れが、求職者に「自分がここで働くイメージ」を持たせます。
カテゴリ3:「文化」と「価値観」
「この会社は何を大切にしているか」を伝えます。経営理念や社訓ではなく、「日常の行動の中に表れている文化」を見せることが重要です。
「うちの会社では、新人でも遠慮なく意見を言える雰囲気がある」「月に一度、全員でランチを食べる文化がある」「失敗を責めるのではなく、次にどうするかを一緒に考える風土がある」——こうした「生きた文化」のエピソードが、求職者の共感を呼びます。
カテゴリ4:「成長」の機会
「この会社で自分は成長できるか」は、特に若手人材にとって重要な判断基準です。
研修制度、資格取得支援、キャリアパス、先輩社員の成長ストーリー——「入社して3年でこうなった」「この資格を取得して、こんな仕事ができるようになった」という実例が、成長の具体的なイメージを伝えます。
カテゴリ5:「暮らし」の魅力
北陸で働くことの生活面の魅力を伝えます。これはUターン・Iターン人材の獲得に特に効果的です。
「金沢の街歩きが休日の楽しみ」「富山の海の幸が食卓を豊かにする」「福井は子育て環境が抜群に良い」——仕事だけでなく「北陸での暮らし」の魅力を発信することが、首都圏からの人材を引き寄せる力になります。
採用広報の「チャネル」を選ぶ
採用広報に使えるチャネルは複数あります。自社のリソースに合わせて選択します。
チャネル1:自社採用サイト
最も基本的かつ重要なチャネルです。求人サイトから企業名で検索した求職者が最初に訪れるのが、自社のWebサイトです。
採用ページには、社員インタビュー、仕事の紹介、社内の写真・動画、福利厚生、選考プロセスの説明——求職者が知りたい情報を網羅的に掲載します。
制作費は外注で50万円〜200万円程度ですが、コンテンツの更新を自社で行える仕組みにしておくことが、継続的な運用のポイントです。
チャネル2:SNS(X、Instagram、Facebook)
SNSは「継続的な情報発信」に適したチャネルです。日常の職場の様子、社内イベント、社員の声——こうした「リアルタイムの情報」を気軽に発信できます。
Instagramは写真・動画を中心に「職場の雰囲気」を伝えるのに適しています。製造業であれば、製品や工場の映像が視覚的な訴求力を持ちます。
Xは短い文章での情報発信に適しており、業界の話題に絡めた発信や、採用イベントの告知に効果的です。
Facebookは北陸の経営者やビジネスパーソンの利用率が比較的高く、中途採用やビジネスネットワークの拡大に活用できます。
チャネル3:noteやブログ
社員インタビュー、仕事の紹介、会社の取り組みを「記事」として発信するチャネルです。SNSよりも詳しい情報を伝えられ、検索エンジンからの流入も期待できます。
週1回のペースで記事を公開できれば、半年で20本以上のコンテンツが蓄積されます。この蓄積が「この会社は情報発信に積極的だ」という印象を作ります。
チャネル4:動画(YouTube)
動画は「言葉では伝わりにくい情報」を伝えるのに最適です。職場の雰囲気、製造現場の様子、社員の表情と声——文字や写真以上のリアリティがあります。
スマートフォンで撮影した短い動画でも十分に効果があります。「完璧な映像」を目指すよりも、「リアルな姿」を見せることが採用広報では重要です。
ゼロから始める採用広報の5ステップ
ステップ1:「誰に届けたいか」を明確にする
採用広報のターゲットを具体的に設定します。「優秀な人材」という漠然としたターゲットではなく、「金沢大学の理系学部3年生」「首都圏でIT企業に勤める28歳の北陸出身者」「富山市在住で転職を考えている30代の製造業経験者」——こうした具体的なペルソナを設定することで、発信すべき内容とチャネルが明確になります。
ステップ2:「自社の魅力」を棚卸しする
自社の採用上の魅力を棚卸しします。在籍社員に「この会社に入社して良かったこと」「友人にこの会社を勧めるとしたら、どこを推すか」を聞くことで、社内では「当たり前」だと思っていた魅力が見えてきます。
「社長との距離が近い」「裁量権が大きい」「残業が少ない」「チームの雰囲気が良い」「北陸の暮らしが快適」——こうした「中にいると気づかない魅力」が、採用広報のコンテンツの素材になります。
ステップ3:チャネルを1〜2つに絞る
最初からすべてのチャネルに手を出すと、リソースが分散して中途半端になります。まずは1〜2つのチャネルに集中します。
リソースが限られている北陸の中小企業であれば、「自社採用ページの充実」+「Instagramまたはnoteのどちらか」の組み合わせから始めることを推奨します。
ステップ4:コンテンツを継続的に発信する
採用広報は「一度やって終わり」ではなく、「継続的な発信」が命です。月に2〜4本の記事やSNS投稿を続けることが、認知度と信頼の蓄積につながります。
コンテンツのテンプレートを作っておくと、制作の負荷が下がります。「社員インタビュー」「一日の仕事紹介」「社内イベントレポート」「北陸の暮らし紹介」——こうしたテンプレートをローテーションすることで、ネタ切れを防ぎます。
担当者を決め、「毎月第2・第4水曜に記事を公開する」といったスケジュールを設定することも、継続のコツです。
ステップ5:効果を測定し、改善する
採用広報の効果は、いくつかの指標で測定できます。
「認知指標」として、Webサイトのアクセス数、SNSのフォロワー数、記事の閲覧数。「応募指標」として、応募者数の変化、「採用サイトを見た」と言う応募者の割合。「質の指標」として、面接通過率の変化、入社後の定着率。
これらの指標を定期的に確認し、「どのコンテンツが効果的だったか」「どのチャネルからの流入が多いか」を分析して、次の施策に反映します。
ある石川の企業が採用広報をゼロから始めた話
石川県のある金属加工メーカーの事例をお話しします。
この企業は社員数約60名で、製造現場のオペレーターと営業職の採用に毎年苦労していました。求人サイトに掲載しても応募は年間10件程度。「そもそもうちの会社のことを知ってもらえていないのが問題では」と、人事担当者は感じていました。
まず、在籍社員15名にアンケートを実施し、「入社の決め手」と「この会社の好きなところ」を聞きました。「社長が気さくで話しやすい」「技術を丁寧に教えてくれる先輩がいる」「金沢の生活が快適」「残業が少なくプライベートが充実している」——社内では当たり前だったことが、求職者にとっては大きな魅力だとわかりました。
次に、自社採用ページをリニューアルしました。制作費は80万円。社員インタビュー6本、職場の写真20枚、仕事紹介4本をコンテンツとして掲載しました。特に力を入れたのは「Uターンで入社した社員のストーリー」で、東京から金沢に戻った30代のエンジニアが「なぜこの会社を選んだか」を語る記事は、多くの閲覧がありました。
Instagramのアカウントを開設し、週2回の投稿を始めました。製造現場の作業風景、完成した製品、社内の昼食風景、金沢の季節の風景——「この会社で働くとこんな日常がある」というイメージを伝えるコンテンツです。投稿は人事担当者と若手社員2名が交代で担当しました。
半年後、採用サイトの月間アクセス数は導入前の約3倍に増加。Instagramのフォロワーは600名に達しました。求人サイト経由の応募者に「企業のことを事前に調べましたか」と聞いたところ、「Instagramを見た」「採用サイトの社員インタビューを読んだ」という回答が増えました。
年間の応募数は10件から28件に増加。特にUターン希望者からの応募が増え、「Instagramで会社の雰囲気がわかった」「社員インタビューを読んで、自分も働きたいと思った」という声が聞かれました。
人事担当者は「採用広報を始める前は、何を発信すればいいかわからなかった。でも、在籍社員に聞いたら素材はたくさんあった。難しいことではなく、自社の日常を見せるだけで反応が変わった」と話していました。
採用広報を「続ける」ためのポイント
採用広報の最大の課題は「継続」です。最初は意気込んで始めても、日常業務に追われて更新が止まる——このパターンは非常に多いです。
「完璧を目指さない」ことが継続の秘訣です。プロが撮った写真でなくても、社員がスマートフォンで撮った写真で十分です。完成度の高い記事でなくても、500文字の短い投稿でも価値があります。「出さないよりも、出す」を優先することが、採用広報の継続につながります。
「担当者を複数にする」ことも重要です。一人に負荷が集中すると、その人が忙しくなった途端に更新が止まります。2〜3名のチームで交代制にすることで、継続性が確保できます。
「経営者が関与する」ことも効果的です。経営者自らがSNSで発信したり、社員インタビューの企画に関わったりすることで、採用広報が「人事の仕事」ではなく「会社全体の取り組み」として認識されます。
採用広報の投資を「経営数字」で語る
採用広報を経営に提案するとき、数字で効果を示すことが重要です。
採用広報の初期投資(採用サイト制作80〜200万円、SNS運用の人件費)と、運用コスト(月間10〜20時間の担当者の工数)を試算します。
一方、効果として「応募者数の増加による採用コストの削減」を計算します。求人サイトへの掲載費が1回30万円で年4回掲載して120万円。採用広報により直接応募が増えて掲載回数を年2回に減らせれば、60万円のコスト削減です。エージェント経由の採用を1名減らせれば、さらに100万円以上の削減になります。
「採用広報への年間投資100万円で、採用コストの年間160万円以上を削減」——この試算が、投資判断の根拠になります。
よくある失敗パターン
「採用広報=求人情報の発信」と勘違いする
「急募!営業職募集中!」という投稿を繰り返すのは、採用広報ではなく求人広告です。採用広報は「今すぐ応募してほしい」ではなく「この会社に興味を持ってほしい」という中長期的なアプローチです。
コンテンツが「会社目線」に偏る
「当社は創業50年の歴史ある企業で…」「当社の経営理念は…」——こうした会社目線の発信は、求職者には響きにくいです。求職者が知りたいのは「この会社で自分がどう働けるか」であり、「この会社がどれだけすごいか」ではありません。
効果が出る前にやめてしまう
採用広報の効果が現れるまでには、最低でも3〜6ヶ月はかかります。開始直後に「応募が増えない」と判断してやめてしまうのは、もったいないことです。半年間は「種まきの期間」と割り切り、継続することが重要です。
「事業を伸ばす人事」を北陸の採用広報から
北陸の中小企業にとって、採用広報は「知名度の壁」を超えるための有効な手段です。大企業のような潤沢な広告予算がなくても、自社の魅力を丁寧に発信し続けることで、「この会社で働きたい」と思う人を着実に増やすことができます。
採用広報の素材は、すでに社内にあります。日々の仕事の中にある「当たり前の魅力」を言語化し、写真や動画で可視化し、継続的に発信する。それだけで、北陸の中小企業の採用力は変わり始めるのではないかと思います。
関連記事
採用・選考北陸の企業が「内定辞退」を減らすための採用プロセス改善
最終面接を通過して内定を出した。本人も嬉しそうだった。なのに1週間後に辞退の連絡が来た——石川県のある機械メーカーの人事担当者が、肩を落としてそう話していたことがあります。
採用・選考北陸の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法
毎年、同じような求人票を出して、同じような人を採っている。でも本当にこの採用で合っているのか、自信がない——福井県のある機械部品メーカーの人事担当者が、そう打ち明けてくれたことがあります。
採用・選考北陸の中小企業が中途採用の選考プロセスを最適化する方法
中途採用で良い人が来たと思っても、途中で辞退されてしまう。最終面接まで進んだのに、連絡が途絶えた——福井県のあるメーカーの人事担当者が、落胆した様子でそう語っていたことがあります。
採用・選考北陸のコールセンター企業がオペレーター定着率を高める方法
採用しても3ヶ月で半分が辞めてしまう。研修コストばかりかかって、ようやく一人前になった頃に退職届が出る——金沢市にあるコールセンター運営会社の人事マネージャーが、深刻な表情でそう語っていたことがあります。