北陸の企業が「人的資本経営」を中小企業の現場で実践する方法
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北陸の企業が「人的資本経営」を中小企業の現場で実践する方法

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北陸の企業が「人的資本経営」を中小企業の現場で実践する方法

「人的資本経営って、大企業の話でしょう?うちみたいな社員80人の会社には関係ないと思っていたんですが、本当にそうなんでしょうか」——富山県のある食品メーカーの経営者から、こんな質問を受けたことがあります。

人的資本経営という言葉が広く知られるようになりました。2022年に内閣官房から「人的資本可視化指針」が公表され、上場企業には人的資本の情報開示が求められるようになりました。しかし、この動きは上場企業だけの話ではありません。

私は、人的資本経営の考え方は中小企業にこそ必要だと考えています。なぜなら、中小企業は大企業以上に「人」に依存しているからです。設備投資で差をつけにくい、ブランド力で優位に立ちにくい——中小企業の競争力の源泉は、紛れもなく「人」です。その「人」を資本として捉え、投資し、価値を高めていく。これが人的資本経営の本質です。

ただし、大企業向けのフレームワークをそのまま中小企業に当てはめても機能しません。北陸の中小企業が実践できる「身の丈に合った人的資本経営」の形があります。

この記事では、北陸の中小企業が人的資本経営を現場で実践するための考え方と方法をお伝えします。


人的資本経営の本質は「人への投資」

人的資本経営とは、「人を資本として捉え、投資し、その価値を最大化する」経営のことです。

ここで重要なのは、「人をコストではなく資本として捉える」という視点の転換です。人件費を「経費」として削減の対象と見るのではなく、「投資」として成長の原資と見る。この違いが、人的資本経営の出発点です。

しかし、「人を大切にする」という精神論だけでは経営は成り立ちません。人的資本経営が従来の「人を大切にしよう」というスローガンと異なるのは、「人への投資が事業の成果にどうつながるか」を数字で考える点にあります。

教育研修に100万円を投じたら、それによって生産性がどう変わるのか。採用に200万円をかけたら、その人材がどれだけの価値を生み出すのか。こうした「投資対効果」の視点を持つことが、人的資本経営の要です。


中小企業が人的資本経営に取り組むべき3つの理由

理由1:人材の採用・定着に直結する

人的資本に投資する企業は、「社員を大切にする企業」として認知されます。北陸のように労働市場が限られた地域では、この認知は採用力に直結します。

福井県のある精密部品メーカーでは、社員教育への投資額を採用ページで公開しています。「当社は社員一人当たり年間○○万円を教育に投資しています」——この情報が、応募者の背中を押す材料になっているそうです。

理由2:事業成長の基盤になる

中小企業が成長するためには、社員一人ひとりの能力向上が不可欠です。新しい技術を習得する、マネジメント力を高める、顧客対応力を上げる——こうした人的資本への投資が、売上や利益の拡大につながります。

理由3:事業承継の成功確率を高める

北陸の中小企業の多くが事業承継の課題を抱えています。事業承継を成功させるためには、後継者だけでなく、次世代の幹部層の育成が必要です。人的資本経営の視点で計画的に人材を育成しておくことが、円滑な事業承継を支えます。


大企業向けフレームワークが中小企業に合わない理由

大企業向けの人的資本経営のフレームワーク(ISO 30414やSASBスタンダードなど)は、情報開示のための指標体系が中心です。これらは投資家向けの情報開示を前提としており、中小企業の実務にそのまま適用するのは現実的ではありません。

具体的に、以下のような理由で中小企業には合いません。

指標が多すぎる

ISO 30414が定める指標は58項目にも及びます。人事担当者が1〜2名の中小企業で、これだけの指標を測定・管理することは不可能です。

データの蓄積が不十分

大企業のフレームワークは、過去数年分のデータを前提としています。しかし、中小企業では人事データの蓄積が不十分なケースが大半です。

開示のための開示になる

上場企業は投資家への情報開示が義務ですが、中小企業にはその義務がありません。「開示のための指標管理」は、中小企業にとって負担にしかなりません。


北陸の中小企業が実践する「身の丈の人的資本経営」

ステップ1:自社の「人的資本」の現状を棚卸しする

まず、自社の人的資本の現状を把握します。大がかりな調査は不要です。以下の5つの問いに答えるだけで、現状が見えてきます。

  1. 社員の平均年齢と年齢構成はどうなっているか
  2. 過去3年間の離職率はどの程度か
  3. 教育研修にどれだけの投資をしているか
  4. 中核人材(辞められると困る人)は何人いるか
  5. 後継者候補(管理職候補)は何人いるか

石川県のある機械メーカーでは、この5つの問いに経営者と人事担当者が一緒に答える「人的資本の棚卸しワークショップ」を行いました。その結果、「中核人材が特定の年齢層に集中している」「教育研修への投資がほぼゼロ」という課題が明確になり、具体的な打ち手を考えるきっかけになったそうです。

ステップ2:「投資すべき領域」を3つに絞る

人的資本への投資領域は多岐にわたりますが、中小企業が同時に取り組めるのは3つ程度です。以下の中から、自社にとって最も重要な3つを選びます。

  • 採用力の強化:優秀な人材を獲得するための投資
  • 教育研修の充実:社員のスキルアップのための投資
  • 定着率の向上:社員が辞めない環境づくりへの投資
  • マネジメント力の強化:管理職の育成への投資
  • エンゲージメントの向上:社員のやりがいを高めるための投資
  • 後継者育成:次世代リーダーの育成への投資

富山県のある鋳造メーカーでは、「定着率の向上」「マネジメント力の強化」「後継者育成」の3つに絞り込みました。限られたリソースを集中させることで、着実な成果が得られたそうです。

ステップ3:測定する指標を最小限に絞る

大企業のように58項目の指標を管理する必要はありません。自社にとって重要な指標を5つ以内に絞ります。

北陸の中小企業に推奨する最小限の指標は以下の5つです。

  1. 離職率:全社および部門別の年間離職率
  2. 一人当たり教育研修費:年間の教育研修投資額を社員数で割った数字
  3. 社員エンゲージメントスコア:年1回の簡易アンケートで測定
  4. 管理職充足率:管理職ポジション数に対する適任者の割合
  5. 一人当たり売上高(または付加価値額):人的資本の生産性の指標

これらの指標を年1回測定し、経年で追跡するだけで十分です。

ステップ4:「人への投資計画」を経営計画に組み込む

人的資本経営を実践するためには、「人への投資」を経営計画の中に明確に位置づけることが重要です。

売上目標や設備投資計画と並んで、「今期は教育研修にいくら投資する」「来期は採用にいくらかける」「管理職研修を何回実施する」——こうした人的資本の投資計画を経営計画に組み込みます。

福井県のある建設会社では、毎年の経営計画書に「人材投資計画」のページを設けています。「教育研修予算」「採用予算」「福利厚生の充実計画」が具体的な金額とスケジュールで記載されています。「経営計画に書くことで、人への投資を『コスト削減の対象』から外すことができた」と社長は話しています。

ステップ5:社員に「人的資本経営の考え方」を共有する

人的資本経営は、人事部門だけの取り組みではありません。「会社は社員に投資している。その投資は、社員の成長を通じて事業の成果につながる。だから、社員にも主体的に成長してほしい」——この考え方を社員と共有することが大切です。


北陸の中小企業ならではの人的資本経営の強み

強み1:経営者と社員の距離が近い

北陸の中小企業では、経営者が社員一人ひとりの顔と名前を知っています。この「近さ」は、人的資本経営において大きな強みです。大企業では統計データでしか見えない「人」を、中小企業の経営者は直接見ることができます。

強み2:投資の効果が見えやすい

社員数が少ないため、一人の社員への投資の効果が組織全体に波及しやすいという特徴があります。一人のエンジニアに技術研修を受けさせた結果、そのスキルがチーム全体に広がり、製品の品質が向上した——こうした効果が見えやすいのです。

強み3:意思決定が速い

大企業では人的資本経営の方針を決めるまでに何ヶ月もかかることがありますが、中小企業では経営者の判断で素早く動けます。「今年から教育研修に予算をつける」「来月から1on1を始める」——スピード感のある実行が可能です。


人的資本経営を「形だけ」にしないために

注意点1:開示が目的になってはいけない

上場企業の情報開示の動きに影響されて、「うちもデータを開示しなければ」と考える中小企業がありますが、中小企業にとって重要なのは開示ではなく実践です。データを集めて開示することに労力を使うよりも、実際に人に投資することに注力すべきです。

注意点2:「人に優しい会社」と「人的資本経営」は違う

人的資本経営は、「社員に優しくする」ことではありません。人への投資が事業の成果につながるかどうかを常に意識する。投資の効果が出ていなければ、投資の方法を見直す。この厳しさを持つことが、人的資本経営の本質です。

注意点3:長期視点を忘れない

人的資本への投資の効果は、すぐには現れません。教育研修の効果が業績に反映されるまでには、数年かかることもあります。短期的な成果が出ないからといって投資をやめるのではなく、長期的な視点で取り組み続けることが重要です。


まとめ

人的資本経営は、大企業だけの話ではありません。むしろ、「人」に大きく依存する中小企業にこそ必要な考え方です。

北陸の中小企業が人的資本経営を実践するためには、大企業向けのフレームワークをそのまま持ち込むのではなく、自社の身の丈に合った形で取り組むことが重要です。人的資本の棚卸し、投資領域の絞り込み、最小限の指標管理、経営計画への組み込み——これらのステップを踏むことで、実効性のある人的資本経営が実現します。

まずは、「自社にとって最も重要な人的資本の課題は何か」を考えるところから始めてみてください。その問いへの答えが、人的資本経営の出発点になります。

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